eコマース・マーケティング 10のトレンド
昨今、経済の不安定な状況が続く一方で、消費者の間ではシームレスな購買体験への需要が急速に高まっています。こうした背景の中、eコマースは今後も着実な成長を続けていくと予測されています。同時に、人工知能(AI)の急速な普及や、データプライバシーに関する規制の強化、さらには次々と登場するテクノロジーの影響を受けて、マーケティング担当者はこれまで以上に、顧客のライフサイクル全体や、組織の構造そのものを見直す必要があります。
さらに、企業内のステークホルダーからは「持続的な成長」を求められ、消費者からは「より良いサービス」や「低価格」を期待される複雑な状況において、ビジネスモデルの再考が今後より一層求められるでしょう。
今回は、特にデジタルマーケティングを担当している方々に向けて、これから注目すべき10の重要なトレンドについてご紹介します。
1.実店舗とeコマースの統合体験期待に対する期待の高まり
eコマースの売上が好調である一方、オムニチャネル・マーケティングの一環として、実店舗型小売企業が再び重要視され始めています。消費者は多くの商品をAmazonなどでオンライン購入することができる現在、小売業者は顧客に実店舗で高品質かつパーソナライズされた体験を提供することで、競争上の差別化を図っています。技術の進化や消費者の期待に応じて、実店舗とオンラインでの購買体験は今後、より一層シームレスに、そして洗練されたものへと進化するでしょう。
この変化は、消費者とマーケティング担当者の双方にとって利益となります。消費者はより便利でパーソナライズされた購買体験を享受し、マーケティング担当者は顧客とより深い絆を築き、リピーターとなる顧客を増やすことでブランドロイヤリティを強化できるのです。
1つの例として美容大手のセフォラは、数年前からこの分野で成功を収めています。売り場の販売員は、買い物客のアカウント情報や購入履歴にアクセスできるモバイルデバイスを使用して、顧客が過去に購入した商品を基に買い物をサポートします。例えば、顧客が以前購入したリップクリームが欲しかった場合、その色の名前を覚えていなくても販売員がすぐに以前購入した商品を探すことができます。また、顧客が過去に購入した商品に基づいて、追加商品を提案することでアップセル(顧客の購入単価を向上させるための営業手段)も可能となります。
ノードストローム(アメリカ有数の大型百貨店)などの大手小売業者も、店舗の広さと店員の役割を再編成しました。店舗には、商品の受け取りや返品のための広いエリアが設けられており、店員はオンライン注文の受け取りや返品を求めて来店するeコマース利用者をスムーズに案内できるよう指導を受けています。
ホールフーズ(アメリカのスーパーマーケット)では、セルフチェックアウトエリアにはスタッフが常駐し、スキャナーに不具合やデジタル決済のトラブルが発生した場合でも、カスタマーサービス担当者がすぐにレジに駆けつけてサポートします。
このように、eコマースと実店舗の統合は、今後さらに進展していくでしょう。
2.AIが普及し、顧客体験を改善する
AIは今後ますます普及し、顧客満足度の向上や、返品の削減、そしてより没入感のある購買体験を実現するために重要な役割を果たすと予測できます。例えばAIを活用したバーチャルスタイリングツールを使えば、消費者が購入前にバーチャルで服を試着したり、家具を自宅に配置した様子をイメージしたりすることが可能となります。
このようなバーチャル技術が消費者の不安を解消し、商品を実際に手に取らなくても購入に踏み切るための決定打となっているのです。消費者が自宅でソファのサイズやカラーを試すことができれば、実際に部屋に置いた際の違和感や返品リスクが大幅に減ります。このように、AI技術は消費者と企業の両方にとってメリットの多いツールなのです。
この技術は、eコマースだけでなく、実店舗での購入体験にも大きな影響を与えています。たとえば、あるアパレルブランドの店舗では、顧客がスカートを手に取ると、AIがすぐにその商品のスタイリング提案を行い、販売員がその情報をもとにおすすめのコーディネートを提案できるようになっています。
このようにAIを活用したブランドの一例として、Stylitics(アメリカに拠点をもつショッピング支援サービスを行う企業)を利用するファッションブランドが挙げられます。同社は、投資収益率(ROI)が46倍、年間平均成長率が320%に達するという成果をあげています。
AIを導入することで、顧客が購入する商品との関連性をより的確に把握し、最適な商品提案が可能になる点は大きな強みです。アメリカの靴メーカー、Weyco Groupのジェフリー・ダグラス氏も、「今後の顧客体験はより洗練され、顧客が見ている商品に関連する提案が的確に行われるようになる」と語っています。
たとえば、黒いドレスシューズを見ている顧客に対して、関連する他のドレスシューズだけでなく、顧客の行動データを基に、予想外の関連アイテムも提示することが可能です。これにより、購入の選択肢が広がり、売上向上につながることが期待されています。
また、AIはアパレル商品のサイズ提案にも活用されています。消費者が自分の体型に合ったサイズを選ぶのが難しい場合でも、AIを活用したプラットフォームを使えば、スマートフォンを使って体のスキャンを行い、適切なサイズを提案してくれるシステムがあります。
特に返品が多いデニムやインナーウェアなどのアイテムでは、このようなAI技術によって返品率を大幅に削減できる可能性があります。
例えば、iPhoneで体をスキャンし、店舗側がそのデータを基に「あなたにピッタリのサイズはこれです」とリアルタイムで教えてくれるといった仕組みは、消費者にとって非常に便利であり、将来的にさらに普及していくことが予想されます。返品は多くのブランドにとって大きな問題であるため、このような技術は、返品コストの削減にも貢献するでしょう。
さらに、AIとともに拡張現実(AR)も購買体験を大きく変えています。例えばサングラスを販売する国際的な小売業、Sunglass Hutでは、ARを活用して消費者が自分の顔にどのサングラスが似合うかを確認できるバーチャル試着システムを導入しています。家具メーカーも同様に、ARを活用して顧客が自分の部屋に家具を配置した際のイメージを確認できるようにしています。これにより、消費者は実際に商品を試してみるような感覚をもち、購入へのハードルを大幅に下げることができるのです。
このように、AIやARの技術はeコマースだけでなく、実店舗の体験にも大きな変化をもたらし、これまでのショッピングの概念を一変させています。
消費者はどこにいてもリアルタイムでパーソナライズされた商品提案を受けたり、自宅で商品を試してみたりすることができるため、eコマースと実店舗の境界はますます曖昧になっていくでしょう。
小売業者はより革新的で個別化された購買体験を提供することが可能になり、消費者の期待に応えるだけでなく、売上の拡大にも寄与することが期待されます。
AIとARの進化が進む中で、企業はこれらの技術をどのように活用して顧客体験を向上させるかが、今後の競争力の鍵となります。
3.団塊世代の消費者をターゲットとした取り組みの強化
近年、マーケティングにおいては若年層が主なターゲットとして注目されていますが、実は団塊世代やその上のサイレント世代(アメリカの1928年から1945年までに生まれた世代)も、消費者として非常に大きな影響力を持っています。
統計によると、特にアメリカにおいては全資産の半分以上がこれらの世代によって保有されており、その購買力は他の世代に比べて圧倒的に高いものとなっています。これらの世代は、多くの消費資金を持ち、購買意欲も旺盛であるため、EC事業者にとっても無視できない重要なターゲット層です。
団塊世代のソーシャルメディア利用が増加
意外に思われるかもしれませんが、団塊世代はテクノロジーやソーシャルメディアへの適応が進んでいます。研究によると、来年には団塊世代の53%が定期的にソーシャルネットワークを利用するようになると予測されています。特にFacebookがこの世代に最も人気がありますが、TikTok、Instagram、Reddit、Snapchatといった新しいプラットフォームにも関心を示し始めており、これらのSNSを利用する年配のインフルエンサーも増えています。
たとえば、73歳でライフスタイルを発信しているTikTokerであるバーバラ・バブズ・コステロさんは、フォロワー数が400万人を超え、親しみやすい「インターネットのお母さん/おばあちゃん」として人気を集めています。
さらに、62歳のファッション業界の重鎮であるジム・タン氏は、InstagramやTikTokで活躍しており、特に20代の若い女性から支持を受けています。
このようなインフルエンサーは、団塊世代と若年層をつなぐ架け橋として機能し、企業が幅広い年齢層にアプローチするための手段として注目されています。
60歳以上の消費者がよりアクティブなライフスタイルを維持し、テクノロジーの利便性を受け入れ続ける中で、企業は消費者に合ったマーケティング戦略を考える必要があります。単純な広告だけでなく、個々の消費者に合わせたカスタマイズされたメッセージやブランド体験が重要です。
この世代に対しては、信頼性のある情報や価値を提供することで、彼らの購買意欲を引き出すことができます。
団塊世代は、経済力だけでなく、ソーシャルメディアの利用も積極的で、約2兆6,000億ドルの購買力を誇ります。
この市場は、企業にとって大きなチャンスを提供しているため、団塊世代をターゲットにしたソーシャルメディア広告やプロモーションは、今後ますます重要性を増していくことが予測されます。団塊世代の消費者を無視することは、EC事業者にとって大きな機会損失となりかねません。
4.消費者は個人データをよりコントロールできるようになる
近年、消費者データの取り扱いに関する意識が大きく広がり、プライバシー保護に強く関心をもつようになっています。
最近の国際的な調査によると、成人の8割がインターネット上で自分の個人情報を管理したいと考えていることがわかりました。
この傾向は、データ収集に対する透明性の確保や、消費者が自分の情報を削除する権利、悪用された場合の法的措置など、個人データの取り扱いに関する権利の強化が求められるようになったことを示しています。
これらの権利の遵守は、企業にとって焦点となってきているのです。
Insider Intelligence(デジタルマーケティングや広告、小売などに関するデータや情報を提供する調査レポート)によると、個人情報の収集を制限し、消費者にデータの使用方法をコントロールする権利を強化する法律を制定する州が増えているそうです。これにより、企業が広告のターゲィングやリターゲティングを行う際、より慎重な対応が求められるようになっています。
スキンケア製品ブランド、Saje Natural Wellnessのシェリー・ウィルソン氏は「プライバシーの管理は今後も重要視されると思いますが、顧客が自身のデータの使い方を自ら決定できる未来がやってくるでしょう」と予測しています。
彼女の考えでは、顧客が自分のデータを提供することに価値を感じるのであれば、企業との間に強い「価値交換」が成立するというものです。
具体的には、顧客が自分のデータを提供する代わりに、メールの量や関係のないコミュニケーションを減らし、それによって時間やお金を節約できたりするのであれば、そこには価値交換があるというものです。
つまり、消費者は自分のデータを慎重に扱う企業を信頼し、そこに価値を見出すようになるでしょう。
ABL Marketingの創設者兼CEOであり、かつてTractor Supply CompanyのCMOを務めたクリスティ・コルゼクワ氏も同様の見解を示しています。「顧客は自分のデータが安全であることを求めていますが、同時にデータを提供することで得られるメリットにも関心がある」と述べています。
顧客は金銭的な価値だけでなく、知識や情報の提供にも価値を感じており、自分のライフスタイルに関連する情報を求めています。
これにより、企業は顧客が最も重視するものを見極め、そのニーズに応じたマーケティング戦略を展開する必要があります。
データプライバシーに関する消費者の意識は今後も高まると考えられます。これに対応して、企業は消費者データの安全性を保証し、その利用に透明性を持たせることが求められます。
消費者がデータ提供に対して何を期待しているのかを理解し、その期待に応えることで、企業の信頼性を向上させることができるのです。
5.マーケターがプライバシー保護のリーダーになる時代
デジタルプライバシーに対する関心が高まり規制が強化されるなかで、マーケターとデータ管理チームはこれまで以上に協力して仕事を進める必要があります。消費者の個人データ保護が重要な課題となっている現代では、キャンペーンやマーケティング戦略が規制を遵守し消費者のプライバシーを尊重するため、マーケティング戦略の議論にプライバシーの専門家を参加させることが不可欠です。
プライバシーを最優先に考えたマーケティングの台頭
「プライバシー・ファースト」というアプローチは、マーケターに必要なデータにアクセスする機会を提供するだけでなく、マーケティング・プロセス全体にデータ・プライバシーの原則を組み込みます。
消費者の個人的権利を尊重し、主要なデータプライバシー規制を遵守し、誤った管理やセキュリティ侵害から消費者データを保護するのです。
さらに、ISACAデジタルトラスト諮問委員会メンバーのアン・トス氏は、「プライバシーはセキュリティと同様、後から修正するものではなく最初からシステムや戦略に組み込むべきです」と述べています。
また彼女は「プライバシー・バイ・デザイン(システムやサービスの企画・設計段階からプライバシー保護を考慮して開発を行う手法)は、顧客からの信頼のためにも重要であるとも指摘しています。
データ漏洩が頻繁に発生する現代、消費者は企業を選ぶ際ますます慎重になっています。そのため、消費者のプライバシーを最優先に考え適切にデータを保護する企業は、競争優位を確保する可能性が高いです。
データ保護に関する深い理解をもつことは、マーケターにとっても進化し続けるデジタルマーケティングの環境での成功に不可欠です。
これにより、消費者の権利を守るだけでなく、企業の信頼性やブランドの評判、ひいては長期的な成長にも繋がります。
アン・トス氏が指摘するように、プライバシー・バイ・デザインは、顧客の信頼という見返りを生む賢い投資なのです。消費者に信頼されることは、企業が持続的な成功を収めるための重要な要素であり、プライバシー保護に取り組む姿勢が企業価値を高めるひとつの要素となるでしょう。
6.ファーストパーティデータとゼロパーティデータへの投資が増加する
マーケティング業界ではサードパーティのCookieが段階的に廃止されることが数年前から知られていました。
しかし、代替となるソリューションの導入が遅れているのが現状です。特に、多くの企業では、マーケティングシステムの近代化に向けた投資が進まず、その主な原因のひとつとして、社内の関係者間での合意形成が挙げられます。
Slalom社ジェニファー・フレック氏は、企業がデータ管理や運用、所有権に関して共通の理解を持つことの重要性を指摘しています。
データ収集においては、第三者(サードパーティ)からの情報ではなく、直接消費者から得られるファーストパーティデータ(企業が自社で集めた顧客に関するデータ)やゼロパーティデータ(顧客が企業に対して自発的に共有する個人情報や購入意向、フィードバックなどのデータ)が今後ますます重要視されるようになるでしょう。
これにより、企業は顧客との直接的な関係を強化し、信頼を築くことが可能になります。
eMarketerのレポートによると、B2Bマーケティングデータへの支出は2024年まで増加が続く見通しです。ファーストパーティデータを効果的に活用するための技術や手法が進化する中で、企業は顧客の行動やニーズに応じたマーケティング戦略を展開し、よりコントロールされた形で顧客との関係を構築できるようになります。これにより、顧客維持や新規顧客の獲得をより効率的に行うことが可能となり、マーケティング効果が大きく向上するでしょう。
7.政治広告費とブランドのリターゲティング戦術への影響
2024年は米国で大統領選挙と中間選挙が行われる大きな年です。Insider Intelligenceによると、これは政治関連の支出が広告市場に120億ドル以上流れ込むことを意味しています。政治広告は膨大な予算で広告枠を確保しようとするため、消費者をターゲットにしているブランドにとっては広告在庫の争奪戦が激化するでしょう。
特に有料チャネルを多く利用しているブランドは、2024年の年明けからリターゲティング広告が効率的に機能しなくなる可能性があります。2023年のデジタル広告支出と比較すると、362%の増加が予想されており、これは広告費の高騰につながります。
また、消費者がデジタル広告に触れる機会が増えすぎることで、広告への無関心も広がるでしょう。このため、ブランドはEメールやSMSといったオウンドメディアの重要性を再認識し、これらのチャネルを効果的に活用できる企業が成功を収めると予測できます。
企業が競争を勝ち抜くためには、強力なアイデンティティパートナーを活用し、よりパーソナライズされた体験を提供することで、消費者とのつながりを深めることが重要です。リターゲティング広告に依存しすぎず、自社のオウンドメディアを強化する戦略が求められる時代に突入しています。
8.倫理的AIの重要性の高まり
AIの技術が進化する中で、倫理的なAIの開発と導入が注目されています。倫理的AIとは、公平性や透明性、そして人間の価値観を重視しつつ、AIを活用するアプローチのことです。この考え方は、AIのリスクを最小限に抑え、責任ある利用を促進するために欠かせません。
2023年、ウォルマート(世界最大のスーパーマーケットチェーン)は「Walmart Responsible AI」という誓約を発表しました。
ウォルマートのヌアラ・オコナー氏は、「これは単なるAIの導入ではなく、私たちが顧客や従業員に直接関わり、透明性を維持しながら、急速に進む技術革新に対して深く考える機会でもあります。ウォルマートは、安全で有益な形でAIを活用し、小売業における倫理的AIの普及を促進したいと考えています。」と話していました。
さらに最近のガートナー社の調査によると、34%の企業がすでにAIセキュリティツールを導入、または導入予定であることがわかっています。特に、生成系AI(文章や画像、メディアを自動生成するAI)のリスクを軽減するため、企業は積極的に対策を講じているのです。
Wunderkind社のジョン・ベイツ氏も、倫理的AIの必要性が高まっていると指摘しています。彼は、「AIモデルの中には、性別、収入、さらには人種まで予測できるものもあります。
このような強力なアルゴリズムの利用には、個人情報に対する明示的な同意が求められますが、AIが生成する合成データと実際の個人情報(PII)とのバランスをどのように取るかが今後の課題です」と述べています。
特に、小売業者にとっては、顧客に関する膨大なデータを持つことが競争力の源泉となりますが、そのデータをどのようにして迅速かつ正確に活用するかが、ビジネスの成功に直結します。
AIを活用することで、これまで以上に高度で実用的なインサイトを得ることが可能となり、マーケティングや販売活動を効率化する手段となるでしょう。
9.AIはビジネスモデルやベンダーとの関係にも影響を与える
AI技術の進化は、マーケティング業務に大きな変革をもたらすだけでなく、マーケターがテクノロジーベンダーと協力するビジネスモデルにも影響を与えています。Wunderkind社のCROであるリチャード・ジョーンズ氏は、「従来のサブスクリプションモデルは徐々に消滅し、成果を保証する企業がその代わりを担うようになるだろう」と予測しています。
多くのハイテク企業は、サービスの利用量に関係なく、固定料金を請求するサブスクリプションビジネスモデルを採用しています。たとえば、メールマーケティングプラットフォーム(ESP)では、月に1通のメール送信から100万通のメール送信まで、料金は同じです。
しかし、今後は成果を基に料金を支払うモデルが主流になると考えられています。この新しいビジネスモデルでは、実際に得られる成果(例えばリードやコンバージョン、収益)が保証されるまで、顧客は支払いを行わないため、マーケティング担当者にとってはリスクが少なく、より成果に直結したサービスを利用できることになります。
従来のベンダーの多くは、サブスクリプション型の収益モデルに依存しており、この成果報酬型のビジネスモデルに移行することは難しいと感じているかもしれません。
しかし、Wunderkindのティム・グロム氏は、今後数年以内に、マーケティングテクノロジー(MarTech)ベンダーの約50%が、この変化に対応できずに破綻すると予測しています。
さらに、AI技術の進化は「自律的マーケティングプラットフォーム」の台頭をもたらすと予想されます。これらのプラットフォームは、従来のマーケティングツールとは一線を画し、AIエンジンを利用して高度な意思決定支援を行います。
このように、自社データを最大限に活用し、パーソナライズされたマーケティング戦略を推進できる企業は、競争優位性を持つことが期待されます。
10.オウンドチャネル体験と有料チャネル
長期的な成長を目指すブランドは、オウンドチャネル(自社運営チャネル)を活用したオーガニックグロース戦略(企業が保有する経営資源を最大限活用し、成長していく戦略)に投資することで、安定的な収益を確保しつつ、顧客獲得コストの増加にも柔軟に対応しています。
GoogleやFacebookなどの有料チャネルは短期的な露出を確保するには効果的ですが、消費者が広告に対してしつこさを感じ始めているため、エンゲージメント率やコンバージョン率の低下が懸念されています。
このような背景から、オーガニックチャネルを利用したマーケティングが再評価されているのです。
多くのEC事業者は、広告費が高騰する中、ファーストパーティデータの重要性を再認識し、より効率的で持続可能なオウンドチャネルの活用に目を向け始めています。オーガニックチャネルは、質の高いコンテンツを提供することで、顧客からの信頼を得やすく、口コミを通じてブランド認知が自然に拡大していく傾向があります。一方、有料チャネルは一時的な効果にとどまり、顧客の獲得後には再度リターゲティング広告などでの接触が必要となることが多いです。
特にFacebookなどの従来の有料チャネルでは、投資利益率の低下が見られ、またデジタル広告環境の安全性に対する懸念も高まっています。
Wunderkind社のティム・グロム氏は、「今後の成長を目指す企業は、ファーストパーティデータを最大限に活用し、自社チャネルを顧客中心の成長エンジンに変えていく必要があります」と指摘しています。
ゼロパーティデータやファーストパーティデータを活用し、EメールやSMS、自社ウェブサイトを通じてパーソナライズされたコンテンツを提供することが、効率的な成長を実現することとなるでしょう。
2024年にむけたマーケターの進化と課題
2024年、マーケターにはさらなる進化が求められます。消費者との接点が多様化する中で、企業はより効率的かつパーソナライズされたマーケティング戦略を採用する必要があります。顧客の期待に応えるためには、オウンドチャネルやファーストパーティデータを効果的に活用し、適切なパートナーシップを築くことが重要です。
また、消費者データの収集においても、プライバシー保護やコンプライアンスへの配慮がますます重要視されています。
企業が適切な価値交換を通じて消費者に対して魅力的なインセンティブを提供すれば、データの提供を促進し、信頼関係を築くことが可能となるでしょう。
また、AI技術を単なる一時的なツールとして捉えるのではなく、長期的な成長を支えるコアバリューとして活用することが企業の成功に繋がります。AIを効果的に活用することで、競合他社との差を広げ、持続的な成長を実現するための強力な基盤を構築できます。
さらに、2024年、政治広告がデジタル広告の在り方に一石を投じ、マーケティングにおけるアイデンティティの重要性が増すと予想されています。
企業は、従来のサードパーティCookieに依存するのではなく、オウンドチャネルを通じてどのような消費者にリーチできるのかを把握することで、企業の成長に大きな影響を与えるのです。
そのため、ゼロパーティデータやファーストパーティデータを基にしたパーソナライズされた体験を提供することが重要となるでしょう。
まとめ
eコマースの世界は急速に変化しており、常に最新のトレンドに対応することが重要です。今回EC業界におけるAIやデータ活用の重要性が一層明確になりました。消費者データの収集と保護が鍵となる中、AI技術を駆使することで、企業は迅速に顧客のニーズを把握し、よりパーソナライズされた体験を提供できるようになります。
また、倫理的なAIの活用やプライバシー保護を重視したマーケティング戦略は、顧客の信頼を獲得し、長期的な成長に繋がる要素です。データを活用し、顧客との価値ある関係を築くことが、今後の競争力を高めるカギとなるでしょう。