田中なお
田中なお

物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。

2030年問題が物流に及ぼす影響と荷主企業ができる対策

2030年問題
2030年問題が物流に及ぼす影響と荷主企業ができる対策

2030年問題は、少子高齢化によってもたらされる社会全体の課題です。特に人材確保が困難な業界では、労働力不足への懸念が高まります。物流業界も例外ではありません。

当記事では2030年問題とは何かを説明したうえで、物流への影響と対策について解説します。荷主企業として、物流を滞らさせないために何ができるか、考えてみましょう。

2030年問題とは?

2030年問題とは?

画像出典:令和5年版高齢社会白書|内閣府

2030年問題とは、少子高齢化によって2030年に表面化する問題の総称です。「令和6年版高齢社会白書」によると、2030年には日本人の約3分の1が、65歳以上の高齢者になるとされています。これにより、考えられる影響は以下のとおりです。

  • 経済成長率、GDPの低下
  • 人材獲得競争の激化
  • 社会保障料の負担増加
  • コンパクトシティの増加

労働力人口の減少により、日本全体の生産性が低下すれば、経済成長率が鈍化します。その結果GDP(国内総生産)も低下し、海外の生産力に依存せざるえなくなる可能性があるでしょう。

企業にとっては人件費が高騰し、人材の獲得が困難になります。事業存続のためには、先手を打って対応しなければなりません。そのほか、社会保障料の負担増加や過疎化も危ぶまれています。

日本は世界で最も高齢化率が高い国です。未来を見据えて、どのような行動を取るべきか考える時が迫っています。

2030年の物流需給ギャップ予測

65歳以上の就業者の割合が高い業種は順に、「農業・林業」、「不動産業・物品賃貸業」、「サービス業」が挙げられます。一方で、運送業では、そもそも物流の需要に対してトラックドライバーの数が足りていません。この不足に2030年問題が追い討ちをかける形になります。

2023年1月、2030年には全国で必要な輸送力に対し35%のドライバーが不足するとNRI社が推計を発表しました。その後、2024年6月に公表された最新のデータでは、輸送力の36%が不足すると更新されました。

なお最新データでは、営業用トラックドライバーの数が増加しています。2020年度が実績値ベースになったことから、軽貨物ドライバーの増加が加味された結果と予想されています。しかし必要なドライバー数も増えたため、輸送力不足を補う結果にはなりませんでした。

さまざまな物流対策が講じられていますが、輸送力不足を表す数値は微増する結果となっています。

参考:2024年以降も深刻化する物流危機|株式会社野村総合研究所

物流の2030年問題が深刻な理由

では物流の2030年問題はなぜ、ここまで深刻化してしまったのでしょうか。

  • 物流の2024年問題
  • 労働環境の悪化

物流の2024年問題

必要なドライバー数の増加は、物流の2024年問題の影響を受けています。

物流の2024年問題とは、2024年4月から運送業に適用された働き方改革関連法などの影響で生じる諸問題を指します。長時間労働を是正する目的で、時間外労働に年間960時間の上限規制が適用されました。

遠方に商品を運ぶためには、長距離輸送が必要です。トラックの長距離輸送は、長時間労働の一因となっていました。これを改善するために中継輸送を導入。中継輸送では、発着地の間に中継地点を設け、リレー方式でドライバーや車両を交代します。これにより、ドライバーにとって数日要していた運行が日帰り運行に変わります。

ドライバーの健康面でのメリットは大きい一方、一定の距離を走行するために、必要なドライバー数は増加しました。

<関連記事>「2024年問題とは?物流業界の課題に挑む働き方改革とその対応策を解説

労働環境の悪化

運送業界は、長時間労働が常態化しています。かつては「働くほど稼げる職業」でしたが、参入者の増加により、運賃と収入が低下してしまいました。年収が際立って低いわけではありませんが、時間と仕事への対価がドライバーに支払われていないのが現状です。

 

令和4年度年間所得額

全産業

 

497万円

大型トラック

 

477万円

中小型トラック

 

438万円

出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査

そのため、タイパやワークライフバランスを重視する傾向にある若手人材の採用が困難な状況が続いています。働き方改革による一定の成果は期待できるものの、法令遵守が十分に達成されていません。現在、女性や外国人の労働力活用や賃上げが推進されています。

2030年問題が物流に及ぼす影響

2030年問題が物流に及ぼす影響

物流の2030年問題は、こうしたさまざまな要因から深刻化する可能性があります。次に具体的にどのような影響が起こりえるのか、チェックしましょう。

  • 人材獲得競争の激化
  • リードタイムの延長
  • 物流コストの高騰

人材獲得競争の激化

2030年問題が物流に及ぼす影響の1つ目は、人材獲得競争の激化です。物流の人手不足は、ドライバーだけに限りません。ドライバーに商品を引き渡す前の工程、倉庫内作業員にも人手不足が迫っています。

令和6年6月時点で、全体の有効求人倍率は1.23倍を示しています。

参考:一般職業紹介状況(令和6年6月分)について|厚生労働省

ドライバーとピッキング作業員の有効求人倍率は以下のとおりです。

職種

有効求人倍率

トラックドライバー

2.26

ピッキング作業員

1.49

参考:職業情報提供サイトjobtag

求人媒体に求人を掲載しても応募がない場合、継続して募集しなければならず、採用コストは増大します。人材獲得競争が加速すれば、運賃や時給の高騰も避けられません。

リードタイムの延長

十分な人材が確保できなければ、出荷が滞り、リードタイムの延長を余儀なくされる可能性も考えられます。

今よりさらに物流の需給バランスが崩れた場合、希望の日時に車両の手配ができなくなるかもしれません。また地域によっては、すでに宅配便や郵便でもリードタイムが延長されています。

ドライバー不足以前に、倉庫内作業員の確保ができなければ、当日出荷分の商品をさばけないといった事態も考えられるでしょう。

物流コストの増大、営業利益の圧迫

運賃や時給の高騰が続けば、物流コストが増大し、営業利益の圧迫に繋がります。営業利益は、売上総利益から販売費や一般管理費を引いた金額です。物流コストも販売費・一般管理費に含まれます。

営業利益を上げるには、売上総利益を向上するか、コストにあたる販売費・一般管理費を削減しなければなりません。しかしコストは増大傾向です。いかに効率的に利益を上げるかといった観点が重要になります。

物流の2030年問題への対策

物流の2030年問題への対策

次に2024年問題の解決や2023年問題に向けてできる物流対策を紹介します。荷主企業が物流を滞らせないために考えられる手段は以下のとおりです。

  • 適切な運賃の支払い
  • 共同配送
  • 輸送モードの転換
  • 庫内物流のDX推進
  • 物流の外注

適切な運賃の支払い

物流の2030年問題を乗り越えるために、1番シンプルな対策は適切な運賃を支払うことです。トラックの運賃は2030年には、2022年度比で34%上昇すると推計されています。ドライバーの収入と運賃が相関関係にあるためです。

参考:2024年以降も深刻化する物流危機|株式会社野村総合研究所

運送会社としても、経営が成り立たない運賃では仕事を受託できません。信頼関係構築が安定したトラック輸送を続けられる鍵になります。

共同配送

共同配送は、効率的に商品を運べる物流対策です。トラックに複数の荷主企業の商品を一緒に積載して共同で配送します。同じ地域や同じ納品先に商品を運ぶ荷主企業同士が手を組む取り組みです。

コンビニ大手ファミリーマートとローソンも東北地方から共同配送を始めています。ライバル企業や業界の垣根を超えたマッチングが不可欠です。

共同配送は、車両台数やコストの削減が期待できると同時に、CO2削減効果もあります。

輸送モードの転換

トラックを利用した長距離の輸配送から鉄道輸送、海上輸送、航空輸送などの輸送モードに切り替える手段もあります。

コンテナを利用した鉄道輸送では、トラックから手で積み替え作業をする必要がありません。海上輸送は、トラックと比較して大量輸送が可能です。航空輸送には、長距離であっても商品を早くお届けできる特徴があります。いずれもドライバー不足へ対応できることに加え、大量輸送や空きスペースの有効活用により、環境に配慮した取り組みにもなります。

ただし、前後の工程にトラック輸送が必要になるため、コストメリットが出しづらく、また鉄道輸送と海上輸送はリードタイムが長くなることも否めません。確実に商品を運ぶ手段として、輸送モードを切り替える選択肢を持っておくとよいでしょう。

庫内物流のDX推進

これまでと変わらず営業利益を確保するためには、スタッフ1人あたりの生産性を高める必要があります。売るための施策を実施すると同時に、在庫を効率的に回転させられる物流の構築が必須です。

倉庫のスループットが滞れば、リードタイムが遅れる要因になります。また、ドライバー不足により、荷待ち時間の管理が厳しくなるため、待機料金がかさむ可能性もあるでしょう。

これらの対策として庫内物流のDX推進は有用です。1時間あたりで処理できる物量を増やし、スタッフの時給高騰や人手不足に耐えうる仕組みを構築しましょう。

<関連記事>「物流DXとは|物流業界の課題やDX推進へのポイント、事例を解説

物流の外注

2030問題への物流対策として、外注もひとつの手段です。多くの荷主企業が商物分離を行い、すでに仕組みが整っていて、人員も確保できている物流会社に物流を委託しています。

<関連記事>「【商流とは?】物流・金流との違いや重要性、商物分離をわかりやすく解説

また運送会社とのネットワークも豊富で、結びつきが強いため、ドライバー不足への懸念も解消されるでしょう。配送費はボリュームディスカウントされるので、物流コストの削減にも有効です。個社別では対応しづらい、2030年問題への対応を任せられます。

<関連記事>「EC物流代行サービスとは?おすすめの代行会社15選を紹介

2030年問題への物流対策は富士ロジテックホールディングスにおまかせ

2030年問題への物流対策は富士ロジテックホールディングスにおまかせ

労働力人口が不足する2030年問題は、物流にも影響する可能性があり、対策が必要です。

現在、ドローンや自動運転技術の活用、自動物流道路の構築など、官民一体で対策が進められていますが、2030年までに輸送力不足が解消する保証はありません。

また共同配送や輸送モードの転換、庫内物流DXのいずれを実現するにも、ノウハウや時間が必要です。外部委託もあわせて検討しましょう。富士ロジテックホールディングスの物流代行は、物流コンサルティングを兼ねています。お取引の内容に沿って最適な物流の提案が可能です。

2030年を見据え物流に不安を抱えている荷主企業のご担当者さまは、ぜひ富士ロジテックホールディングスにご相談ください。

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田中なお

ライター

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