
海外から輸入された貨物を一時的に保管できる「保税倉庫」には、税金の支払いに猶予ができるだけでなくさまざまなメリットがあります。しかし、ルールや規制が厳しく、デメリットになる場合もあるため注意が必要です。
本記事では、輸入時に保税倉庫を活用するメリットとデメリットを詳しく解説します。また利用時の流れや倉庫選びのポイント、国内にある保税倉庫の一覧表とその一部の保税倉庫も紹介します。
海外からの貨物を安全に管理するために、事前に必要な情報を把握しておきましょう。
保税倉庫とは輸入された外国貨物を一時的に保管できる倉庫
海外から貨物を輸入する際は、通関手続きが必要です。通関手続きでは、税金の支払いや審査に時間がかかることもあります。
保税倉庫とは、この通関手続きが完了するまで一時的に貨物を保管できる倉庫のことです。
「保税」とは税関手続きが保留された状態を指し、このような貨物は「外国貨物」と呼ばれています。
ただし、輸入申告が完了していない外国貨物を長期間保管すると、関税法違反による罰則を受ける可能性があるため、注意が必要です。
保税地域と保税倉庫の目的
輸入申告をしていない外国貨物の積みおろし、運搬、蔵置、加工・製造、展示ができる場所を「保税地域」と呼びます。保税地域は財務大臣または税関長が許可した場所であり、以下のような目的で設置されています。
"「保税地域の目的は、輸出入貨物を法の規制下に置くことにより、秩序ある貿易を維持し、関税などの徴収の確保を図るとともに、貿易の振興及び文化の交流などに役立てることです。」” |
保税倉庫は、保税地域の一種です。つまり、保税倉庫も関税の支払いを保留すること自体を本来の目的としてはいません。安全かつ円滑に貿易取引を進めるために、外国貨物のまま、蔵置や加工ができる施設といえます。
保税地域の種類と主な機能
保税地域には、以下の5つの種類があります。
- 指定保税地域
- 保税蔵置場
- 保税工場
- 保税展示場
- 総合保税地域
種類別の主な機能は以下のとおりです。
保税地域の種類 |
主な機能 |
設置の手続き |
蔵置期間 |
1.指定保税地域 |
外国貨物の積みおろし、運搬、一時蔵置 (例:コンテナヤードなど) |
財務大臣の指定 |
1カ月 |
2.保税蔵置場 |
外国貨物の積みおろし、運搬、蔵置 (例:倉庫、上屋など) |
税関長の許可 |
2年(延長可) |
3.保税工場 |
外国貨物の加工、製造 (例:造船所、製鉄所など) |
税関長の許可 |
2年(延長可) |
4.保税展示場 |
外国貨物の展示、使用 (例:博覧会、博物館など) |
税関長の許可 |
税関長が必要と認める期間 |
5.総合保税地域 |
②~④の総合的機能 (例:中部国際空港など) |
税関長の許可 |
2年(延長可) |
出典:保税地域の種類と主な機能|税関 Japan Customs
下記で、それぞれの保税地域の特徴を解説します。
指定保税地域
指定保税地域は財務大臣が指定した施設で、国や地方公共団体などが所有または保管する場所を指します。海上コンテナなどを短期間(約1カ月以内)保管できます。
保税蔵置場
保税蔵置場は税関長が許可を受けた地域で、2年間貨物を保管できる施設です。一般的に保税倉庫とは、この保税蔵置場のことを指します。
倉庫内では保管に加えて、点検や仕分け、値札付けなどの加工作業も行うことができます。
保税工場
保税工場では税関長の許可を受けた施設で、外国貨物の加工や製造ができます。例えば、缶詰や菓子の加工に加え、自動車、精密機器、船舶などの製造も可能です。
保税展示場
保税展示場とは外国貨物を展示する場所として、税関長の許可を受けた保税地域です。例えば、国際的な博覧会や東京モーターショー、万博の会場などが挙げられます。
総合保税地域
総合保税地域は税関長の許可を受けた場所として、上記2~4の保税地域の機能を総合的に活用できます。
保税倉庫を利用する4つのメリット
ここでは、保税倉庫(保税蔵置場)を利用する4つのメリットを詳しく解説します。
- 輸入貨物を安全に保管できる
- 保管期間は税金が免除される
- 物流の効率化が図れる
- 輸送コストが削減できる
輸入貨物を安全に保管できる
保税倉庫は、税関長の許可を受けた指定施設です。税関の監督下に置かれるため、不正な搬出入や密輸行為などの水際対策が徹底され、輸入貨物を適正に取り扱う仕組みが整っています。
保税倉庫は、許可を受けるために「人的要件」「場所的要件」「施設的要件」「量的要件」の4つの条件をクリアしている点も特徴です。
こうした管理体制のもと、貨物の適正な管理が行われ、結果として安全性の高い保管環境が維持されやすいことがメリットです。
保管期間は税金が免除される
通関手続きが完了するタイミングまで、保税倉庫に保管中の外国貨物に関税や消費税などの税金は課されません。そのため、一時的に経費の負担を抑えられ、資金計画を調整しやすいこともメリットです。
保管中の商品に腐敗や変質が生じ、廃棄が必要になった場合は、税関長の承認を得れば滅却処分も行えます。さらに、保税状態のまま他国への転売もできるため、関税を支払わずに再輸出も可能です。
物流の効率化が図れる
保税倉庫では通関処理の手続き中であっても、検品や加工、配送準備などが進められます。入荷から出荷まですべての業務を保税倉庫内で完了できるため、物流の効率化が図れることもメリットです。
輸送コストが削減できる
保税倉庫で一時的に保管された貨物は、通関の手続きが完了するとエンドユーザーに直接配送できます。一方で、不良品の発生や法改正によって貨物の引取りができない場合は、外国貨物のまま税金を支払わずに積み戻しが可能です。保税倉庫の活用により、貨物の移動が最小限に抑えられ、輸配送にかかるコスト削減につながることがメリットです。
保税倉庫を利用するデメリット
保税倉庫を利用する際は多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。以下にあるデメリットを理解しておきましょう。
- 外国貨物のまま運送するには保税運送制度の手続きが必要
- 厳格な規制の遵守が求められる
外国貨物のまま運送するには保税運送制度の手続きが必要
保税倉庫で管理されている外国貨物は、関税の支払いが完了するまで自由に取り出せません。誤って、手続きを踏まずに出荷してしまうと密輸入とみなされ、法的な処罰を受ける可能性があります。
ただし、保税運送制度を利用すれば税関の承認を受けたうえで、外国貨物のまま指定された別の保税地域への運送が可能です。しかし、この制度を利用するには、申告書の提出や運送期間の指定、運送後の到着確認など書類の作成や税関による審査が必要です。煩雑な手続きに時間や手間がかかる点は、保税倉庫利用時のデメリットといえるでしょう。
厳格な規制の遵守が求められる
保税倉庫を利用する際は、輸入申告から審査、監査、関税の納付などさまざまな規制の遵守が求められます。申請書の記入漏れや数量の過不足が生じると、密輸入とみなされるリスクが高まります。
このように通関業務は非常に煩雑であるため、輸出入の頻度が少ない企業にとっては手続きが負担になることがあるでしょう。そのため、通関手続きの手順を十分に理解して、正確に進める必要があります。
保税倉庫を利用する流れ
保税倉庫は輸出入の商品を扱う施設ですが、ここでは輸入の流れに焦点を当てて解説します。輸入時の大まかな流れは以下のとおりです。
- 搬入
- 検査
- 輸入申告
- 輸入許可
- 出庫
搬入
海外から到着した貨物を保税倉庫に搬入します。貨物が陸揚げされる前に「外国貨物仮陸揚の届出」を税関に提出し、取おろし(荷おろし)手続きを行います。
検査
搬入された貨物は、その貨物の種類によって「他法令手続きに関する調査」を受けます。他法令とは、関税関係(関税法、関税定率法、関税暫定措置法)以外の法令のことです。
他法令には食品衛生法や薬機法、植物防疫法などがあり、それぞれ所管省庁が異なるため、許可が下りるまでに時間がかかることがあります。事前に必要手続きを把握しておきましょう。
輸入申告
必要な書類を揃えて、保税倉庫を管轄する税関へ輸入申告を行います。一般的には通関業者が代理申告を行い、必要書類(インボイス、パッキングリスト、B/LまたはAWBなど)をそろえて電子申告システム(NACCS)を使用することが多いです。書類に不備があると、再申告が必要になり、スケジュールが遅延する可能性があります。
輸入許可
輸入申告の審査に通過したら、関税や消費税を支払い、税関から輸入許可を受けます。許可を受けると、輸入許可通知書が発行されます。
出庫
輸入の許可を受けた貨物は内国貨物の扱いとなり、国内での出荷が可能になります。保税倉庫内に保管されていた貨物を、国内の納品先に発送します。
保税倉庫の選び方のポイント
適切な保税倉庫を選ぶことで、煩雑な輸出入の手続きや管理上のトラブルを防ぐことができます。ここでは、以下の要素を踏まえて、選び方のポイントを解説します。
- 立地条件
- 倉庫の保管環境
- サービス範囲・コスト
立地条件
保税倉庫を選ぶ際は、立地条件を重視するのがポイントです。配送先に近い立地で、主要な交通機関へのアクセスが良い倉庫では、貨物の搬入や搬出がスピーディーに行えます。
また、積雪などの自然災害が少ないエリアでは、輸送中のリスクを減らせます。このように立地条件の良い保税倉庫を選ぶと、配送時間の短縮にもつながり物流の効率化が期待できます。
<関連記事>「物流拠点を最適化する方法とは? ポイントや取り組み事例を解説!」
倉庫の保管環境
倉庫の保管環境も選び方のポイントの一つです。例えば、食品や医薬品を扱うケースでは、冷蔵、冷凍、常温、定温などの保管環境が求められます。
長期間の保管を前提とする場合は、清潔で衛生的な環境が必要です。さらに、盗難リスクや貨物の損傷を防ぐため、徹底したセキュリティ対策が講じられているかも重視しましょう。
<関連記事>「3温度帯とは?4温度帯との違いや冷凍・冷蔵倉庫の温度について解説」
サービス範囲・コスト
保税倉庫で提供されるサービス範囲やコスト面も、適切な倉庫を選ぶ判断材料の一つです。保税倉庫には貨物の保管だけでなく、検品や加工などの付加価値サービスを提供する倉庫もあるため、自社に合ったサービス内容を検討する必要があります。
また、輸送手続きや通関手続きを一括してサポートしてくれるかどうかも重要なポイントです。通関手続きは専門知識が必要で煩雑な業務となるため、サポートが整った倉庫を選ぶとスムーズな運用が可能になります。
サービス範囲とコストのバランスを取りながら、適切な保税倉庫を選びましょう。
保税倉庫の一覧表と通関に対応できる事業者3選
以下、税関のホームページでは、承認を受けた全国の保税倉庫(保税蔵置場)の一覧表が公開されています。
保税地域一覧表・承認工場一覧表 : 税関 Japan Customs
こちらでは、保税蔵置場として承認を受けた倉庫を3選紹介します。
- 富士ロジテックホールディングス
- SBSリコーロジスティクス
- 日本航運
富士ロジテックホールディングス
富士ロジテックホールディングスが提供する保税倉庫は、東京港や羽田空港に近い「平和島倉庫」や都内へのアクセスが1時間以内の「大井流通センター」など、利便性の高い立地が特徴です。アパレルや通販、精密機器、温度管理が必要な商品など、貨物の特性に応じて適切な倉庫を選択できます。
富士ロジテックホールディングスでは通関手続きのサポートも提供されており、円滑な運用が期待できます。
SBSリコーロジスティクス
SBSリコーロジスティクスでは、京浜港や阪神港を中心に国内の主要港に保税倉庫を展開しています。精密機器メーカーや化学メーカー、自動車部品メーカーなど、多様な業界との取引実績があります。
大型機器やデリケートな精密機器の梱包設計を得意としており、製品の特性に応じた手法を用いて安全かつ適切に保管業務を行います。
日本航運
日本航運の保税倉庫では、通関処理から検品、加工、保管、出荷まで一貫したサポートを提供しています。特に流通加工に強みを持ち、アソート(詰め合わせ)や検品、ラベル貼付など細かな対応が可能です。
さらに、独自の物流網を活用し、通関後の貨物を全国にスムーズに配送できる体制を整えています。
保税倉庫をお探しなら富士ロジテックホールディングスへ
保税倉庫は輸入貨物の関税手続きが完了するまで、一定期間貨物を安全に保管できる施設です。保税倉庫を活用すると、特に資金繰りの調整に有効です。
ただし、保税倉庫には厳格な規制が設けられており、申告手続きは煩雑で時間がかかる点がデメリットです。富士ロジテックホールディングスでは、アクセスの良い立地に保税倉庫を所有しており、通関処理のサポートも提供しています。
経験豊富なプロのサポートを受けることで税関でのトラブルを未然に防ぎ、スムーズな輸入業務が実現できます。業務の効率化を図るためにも、ぜひ富士ロジテックホールディングスへお任せください。


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ライター
森恵
貿易事務と物流代行営業の経験を活かし、専門知識に基づいた記事作成を行っています。お客様に寄り添い、分かりやすく役立つ情報を提供します。
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