物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
食品ECは、市場規模が大きいにも関わらず、EC化が伸び悩んでいるジャンルです。一方で、お取り寄せグルメや健康食品、ネットスーパーの食品・飲料などの購入にネットショップを活用した経験がある人は多いのではないでしょうか。
当記事では、食品ECの市場規模やEC化率などの現状を解説したうえで、事業に参入する際の課題や成功のポイントを紹介します。
食品ECを始める方や市場の傾向を掴みたい方は、ぜひ参考にご覧ください。
食品ECとは?3つの種類
そもそもECは、「Electronic Commerce」の略称で、日本語では電子商取引と訳されます。つまり食品ECとは、インターネット上で生鮮食品や加工品などの食品を取り扱うネットショップを指す言葉です。
独自ドメインの自社ECサイト(ネットショップ)から販売する方法のほか、Yahoo!ショッピングや楽天市場、Amazonなどの大手ECショッピングモールに出店する方法があります。
食品ECは、大きく3つのタイプに分類できます。
- メーカーや生産者直販のネットショップ
- ネットスーパー
- 定期宅配サービス
メーカーや生産者直販のネットショップ
食品ECのタイプの1つ目は、メーカーや生産者が運営する食品のネットショップです。
商品例としては、お取り寄せ商品やギフト商品、健康食品などが挙げられます。
コロナ禍を契機に飲食店で提供している食べ物を商品化し、食品ECを展開するケースも見られるようになってきました。
小売店や卸売事業者を仲介せず、直接消費者に商品を届ける手法としてDtoC(Direct to Consumer)という言葉が流行し、メーカーや生産者のEC参入が進んでいます。
ネットスーパー
食品ECのタイプの2つ目は、スーパーマーケットで扱う食品のネット販売です。インターネットで注文をすれば、消費者は野菜・肉・魚を含む食品を自宅で受け取れます。
ネットスーパーに関しても、自社ECサイトで展開する方法と、大手ECショッピングモールに出店する方法があります。加えて、実店舗を持たないEC特化型ネットスーパーも存在します。
自社ECサイト |
おうちでイオン イオンネットスーパー、ライフネットスーパー(Amazon連携も有)等 |
ECショッピングモール |
Amazonネットスーパー、楽天マート等 |
EC特化型 |
Amazon Fresh |
また、物流形態にも以下の3つのパターンがあります。
- 店舗出荷型ー実店舗の陳列棚や在庫棚から商品をピッキング
- センター出荷型ー在庫が集約された大型物流センターから商品をピッキング
- ダークストア型ー来店サービスを提供していない配達専用店舗の陳列棚から商品をピッキング
食品ジャンルの中でも特に重たい、飲料・お米などの購入に重宝されます。
定期宅配サービス
食品ECの3つ目のタイプは、食材や加工食品が定期的に届くサブスクリプション型宅配サービスです。
栄養バランスや新鮮さの質に考慮されたミールキットや弁当が、子育て世代や高齢者層に人気です。手間の削減を付加価値として提供しています。
代表的なサービスとしては「Oisix」「co-op deli」「パルシステム」などが挙げられます。その他、健康食品系のサブスクリプションサービスも根強い人気です。
関連記事:「食品サブスクとは?メリットや課題、ジャンル別事例と参入のポイント」
食品ECの市場規模とEC化率
出典:経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
新規事業に参入する際や戦略を検討する際に、市場規模やニーズの把握は重要です。ここでは、最新(2024年11月現在)の食品ECに関する市場規模やEC化率と、その考察を解説します。
食品ECの市場規模
参考:経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」を参考に筆者が作成
経済産業省の「令和5年度デジタル取引環境整備事業(以下、電子商取引に関する市場調査と呼ぶ)」によると、2023年における「食品・飲料、酒類」のBtoC-EC市場規模は、前年から6.52%増加し、2兆9,299億円でした。
この数字は、BtoC-EC物販系分野の中で1番大きな市場規模を示しており、全体の20%を占めています。次いで、2位が「生活家電、AV機器、PC・周辺機器」(2兆6,838億円)、3位が「書籍、映像・音楽ソフト」(1兆8,867億円) です。
食品ECには、十分に大きな市場規模があります。
食品ECのEC化率
参考:経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」を参考に筆者が作成
「電子商取引に関する市場調査」によると2023年における「食品・飲料、酒類」のEC化率※は4.29%でした。2022年の4.16%から微増傾向です。
※EC化率…市場規模全体の売り上げに対してECの売り上げが占める割合
「書籍、映像・音楽ソフト」の53.45%や、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器」の42.88%と比較すると、「食品・飲料、酒類」のEC化率は大幅に低い数字を示しています。一方で、一貫してEC化が進んでいることや、市場規模の大きさで他ジャンルに勝っていることから、食品ECは大きなポテンシャルを秘めているともいえるのではないでしょうか。
「電子商取引に関する市場調査」から見る食品EC
続いて「電子商取引に関する市場調査」において、「食品・飲料、酒類」ジャンルのECで注目すべき売上の内訳を見ていきましょう。
ネットスーパー市場の拡大
「電子商取引に関する市場調査」では、コロナ禍からよく見られるようになった「日常における食品の買い物にECを利用する」という消費者行動が、そのまま定着していると考察しています。ネットスーパーの売上は拡大しており、新規参入者も増加傾向です。
なお、米国のEC市場でも、スーパーマーケットであるWalmartやTargetがECサイトの売上上位にあがっています。同様の文化が根付くことにより、今後も成長が期待できるでしょう。
食品ECで市場が拡大傾向にある商品
BtoC-EC市場規模における「食品・飲料、酒類」ジャンルの内訳を詳しく見ると、以下の商品の売上が伸びています。
- 調理食品
- 酒類
- 菓子類
- 肉類
食品ECに参入する際には、こうした指標を参考にするのも良いでしょう。
健康食品分野の拡大
また、健康食品分野も売上も好調です。
健康食品分野のメインユーザーである高齢者が、テレビ通販やカタログを経由した購入から、ECに移行しつつある傾向が見られます。また、コロナ禍を経て、ダイエットや健康増進に対する意識が高まったことも理由として挙げられるでしょう。健康食品分野も市場規模が拡大する可能性があります。
食品ECの事業が抱える課題
食品をECで取り扱う難しさから、「食品・飲料、酒類」のEC化率は低い傾向です。では、食品ECは、どのような課題を抱えているのでしょうか。以下の5つを詳しく解説します。
- 利益が低くなりやすい
- 生鮮食品は鮮度・品質の維持が難しい
- 配送料の負担が重い
- 実物を手に取って選べない
- 必要な時にすぐに買える店舗の利便性に勝てない
課題1.利益が低くなりやすい
食品ECは、利益が低くなりやすい点が大きな課題です。食品を扱う特性上、単価の低さと賞味期限の存在がハードルになります。
それに対して、冷蔵・冷凍品は温度管理に関わるコスト(保管・配送)を考慮しなければなりません。
日用品・雑貨を扱う物販系事業者以上に商品開発にこだわり、フルフィルメントの運用効率や、利益率を上げていく必要があります。
関連記事:「冷凍配送とは?|適切な発送方法・梱包資材、注意点を解説」
課題2.生鮮食品は鮮度・品質の維持が難しい
生鮮食品の取り扱いには、鮮度を維持することも重要であり、課題のひとつです。そのためには、適切な品質管理およびスピーディーに対応できる物流拠点の配置が不可欠です。
食品ECの利用を検討する消費者の中には、品質を心配する声が少なくありません。リピート購入を促すためにも、新鮮な状態で提供し、信頼を獲得しなければなりませんが、自社努力で取り組むには負担が大きくなりやすい部分です。
課題3.配送料の負担の重い
消費者の購入額が一定以上を超えると「送料無料」の食品ECサイトが多く、配送料の負担がEC事業者側にかかります。物流コストに対して、商品単価が低い傾向にある点が課題です。
2020年には楽天市場が「3,980円以上の購入で送料無料」のガイドラインを設け、出店者は半ば強制的にこの条件を強いられることになるのではないかと話題になりました。
課題4.実物を手に取って選べない
食品ECの課題の中でも高いハードルになるのが「実店舗での購入したい」ニーズの多さです。 成城石井の調査によると、コロナ禍でも約 9 割が「食品スーパー重視」とされていました。「直接手にとって選びたい」と75.2%の人が回答しています。
一方で同調査では、40.5%の人が「食品スーパーの比重が多いが、ネットスーパーも併用している」と答えており、こうした層をどう取り込むかを考える必要があります。
課題5.必要な時にすぐに買える実店舗の利便性に勝てない
食品をECで購入した場合、商品の到着までに時間がかかる点も課題です。
生活圏内にスーパーマーケットやコンビニがある地域では、その利便性から実店舗を選択する人も多いでしょう。
早さで負けない工夫や、ECで買う必要がある商品を取り揃える工夫が必要です。
食品ECの事業を展開するメリット
もちろん、食品ECの事業を展開するメリットもあります。以下のとおりです。
- 商圏や販売機会を拡大できる
- 出店コストを抑制できる
- 商品のストーリーを伝え、ファン化を促進できる
商圏や販売機会を拡大できる
食品ECの展開によって、商圏や販売機会を拡大できる点はメリットです。実店舗でのみ、商品を取り扱う場合、消費者は直接店舗に足を運ばなければ商品を購入できません。
その点、ECであれば全国に商圏を拡大し、24時間365日受注できます。消費者がほしいと思ったタイミングで注文ができるため、販売機会を逃さず、在庫を売上に変えられます。
出店コストを抑制できる
食品ECは、出店コストを抑制できる点もメリットです。実店舗を構えるには、初期投資と賃料、メンテナンス、人件費などのランニングコストが欠かせません。
EC運営は、スモールスタートが可能です。専門知識がなくても自社ECサイトを構築できるShopifyでは、3,650円/月(年払)から利用できます。出荷件数が少ないうちは、1人のスタッフで対応できるでしょう。無理せず、食品販売をスタートさせられます。
商品のストーリーを伝え、ファン化を促進できる
商品の背景にあるストーリーを伝えられる点も、食品ECのメリットです。
ECサイトでは、商品ページやそれ以外のコンテンツを通じて、商品開発の背景や、こだわりポイント、作り手の人となりなどを発信できます。すでに飲食店などの実店舗を営んでいる場合も、顧客層の拡大が期待できるでしょう。
商品やECサイトへの愛着を感じてもらえるように工夫をこらすことで、ファン化を促進できます。
関連記事:「食品サブスクとは?メリットや課題、ジャンル別事例と参入のポイント」
食品ECサイト売上高ランキング上位企業からみる取り組み・事例
次に食品ECサイト売り上げランキングの上位に挙がる企業の取り組みをチェックしましょう。
Amazon(Amazonフレッシュ)
Amazonは、最短2時間の配達の早さと2時間区切りの配達時間指定が魅力の「Amazonフレッシュ」を展開しています。
当初サービスの該当エリアが限定的でしたが、ライフ、バロー、成城石井のネットスーパーと提携し、順次対象エリアを拡大しています。
他社と比較して、生鮮品や惣菜がバラエティ豊富に取り揃えられていることが特徴です。牛乳や水といった重いものが売れ筋商品となっています。
オイシックス・ラ・大地(Oisix)
「Oisix」は、オイシックス・ラ・大地が運営する食品宅配サービスです。
「つくった人が自分の子どもに食べさせられる食材のみを食卓へ」のコンセプトを掲げ、食品宅配サービスを通じて「楽しさ」と「利便性」を提供しています。
価格で勝負せずに、他社サービスと差別化することにより、LTVの向上を狙います。
コロナ禍では、ライフスタイルの変化に対応し、居酒屋「塚田農場」や定食屋「大戸屋」といった外食の味を家庭で楽しめるように、業務提携を行いました。
サントリーウエルネス
サントリーウエルネスは、「セサミンバイタル」を主力商品として、健康食品市場でトップを維持する企業です。
サントリーウエルネスは、店舗販売を商品の認知を図るメディアと位置付けし、ECモールを比較検討メディアと位置付けているといいます。またサンプリングに注力し、SNS投稿や口コミなどのUGCを増やすことに注力しています。
店舗とECを戦略的に運営しながら、新規顧客開拓に取り組む好事例です。
食品EC事業を成功させる5つの秘訣
食品ECは、商品の美味しさだけでは成功しません。商品を売るための戦略や物流設計が不可欠となります。以下の項目を詳しく解説します。
- ECで売れる商品を模索する
- 商品サイズを小さく設計する
- 新規顧客を開拓する
- より良い顧客体験を提供する
- フルフィルメント業務を効率化する
ECで売れる商品を模索する
食品ECの事業を成功させるためには、商品開発の段階で「ECで」売れる商品を検討する必要があります。例えば、以下のような商品のコンセプトが考えられます。
- お中元、お歳暮、季節のイベントなどのギフト商品
- その地域、店舗ならではのお取り寄せギフト
- 時短を目的とするミールキット
- 実店舗での買い物が難しい層に向けてデリバリーを目的とする商品
その他、お得感を出すためのセット販売や、保存がきく冷凍販売など、商品単価を高く設定できるような商品設計もあわせて検討しましょう。
商品サイズを小さく設計する
食品ECでは、梱包サイズを極力抑えた商品設計も重要です。
常温商品の最小単位は、メール便。冷蔵・冷凍商品は、60サイズに収める設計によって、配送料を削減できます。特にクール便は配送料が高いため、ワンサイズ下げるだけでも大きな違いになります。
化粧箱のサイズや、セット販売の入り数、梱包の仕方などを工夫しましょう。配送料を考慮しながら、再配達を減らすためにポストイン配達が食品ECにも活用されています。
関連記事:「EC事業者必見!ポストイン配達で再配達・対面不要!配送サービスを比較」
新規顧客を開拓する
食品をECで販売する際には、新規顧客の開拓も並行すると良いでしょう。
すでに実店舗にファンがついている場合でも、新たな顧客層を開拓できる可能性があります。ひとつは大手ECショッピングモールへの出店が挙げられます。Amazonや楽天市場などの集客力を活かし、売れる仕組みを作りましょう。各ECショッピングモールの顧客層は、重複しない部分も多いため、並行して数店舗を運営するケースは珍しくありません。
その他、SNS集客や広告出稿、コンテンツSEOも有効です。ECならでは施策を、ひとつひとつ積み上げることにより、売上の向上が期待できます。
より良い顧客体験を提供する
食品ECを成功させるために、より良い顧客体験を提供しましょう
ECサイトは、商品購入までの導線や必要な情報の入力がスムーズでない場合、消費者が離脱してしまう可能性が高まります。そのため、おしゃれさよりも、シンプルでわかりやすいデザインが求められます。
加えて、割引のオファーや、関連商品のおすすめをパーソナライズし、より消費者の心に響く提案をすることも有効です。
フルフィルメント業務を効率化する
フルフィルメント業務の効率化も、食品ECを成功させるポイントです。フルフィルメントとは、在庫管理、受注管理、配送、アフターフォローなどのバックエンド業務を指します。
出荷が増えるほど、フルフィルメント業務にかかる負担が重くなり、効率的な仕組みの構築なしに売上の壁を突破することが難しくなる傾向です。
例えば在庫管理において1,000個ある在庫をアマゾンに400個、楽天市場に300個、自社ECに300個…と分けて管理していては、販売機会の損失が生じる可能性があります。この課題を解消するには、OMS(受注管理システム)が必要です。ひとつの画面で、在庫の一元管理が可能になり、効率化にも寄与します。
さらに、フルフィルメント業務や物流業務を委託する方法もあります。事業の拡大に合わせて、効率化を検討しましょう。
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食品ECの参入は戦略的に!
食品ECは、他物販ジャンルと比較すればEC化率も低く、課題が残されています。しかし市場規模は大きく、まだまだ参入する余地があるともいえるでしょう。商品選定、EC構築、物流を戦略的に取り組めば、成功の道が見えてくるはずです。
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ライター
田中なお
物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
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