物流会社でEC発送代行のバックオフィス業務に従事する複業ライター。好奇心旺盛な性格で、過去に営業職や販売職、医療ソーシャルワーカーなどを経験。豊富な経験を活かして物流、医療・福祉、資格、ライフスタイル記事など幅広い分野の執筆を担当する。カテゴリー問わず、便利で使いやすい商品やサービスを求めて、ネットサーフィンを繰り返す日常を送る。趣味は旅行とレトロモダンなカフェ巡り。
近年、ECサイトの普及によって荷物量が急増している状況です。配達ドライバーの人手不足や再配達などの課題が深刻化しており、配達可能な荷物量の限界を超える状態であるといっても過言ではありません。
今後も荷物量は増加傾向にあり、担い手である配達現場がパンク状態に陥る「物流クライシス(危機)」が懸念されています。本記事では、物流クライシスの状況や原因、課題を取り上げたうえで、考えられる改善策を解説します。
物流クライシスとは?
物流クライシスとは、物流業界におけるトラックドライバーの高齢化や人手不足、アナログな体制などが原因で、需要に対して供給が追い付いていない状況を指します。
ここからは、物流クライシスによってどのような影響があるのか解説します。
物流クライシスによる影響
物流クライシスによる影響は、運送事業者に留まらず国内産業全体に広がると予測されています。
JILS「ロジスティクスコンセプト2030」の調べでは、2030年に需要量の約35.9%の荷物が運べなくなる状況に陥ると指摘されています。物流が滞るため商品や原材料が届かず、国内産業全体の生産性低下が避けられないでしょう。
また、輸送件数の減少によって、営業収入の低下も懸念されます。公益社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業現状と課題2022」の調査によると、2018年度のトラック運送事業の営業収入は19. 3兆円であり、2030年には営業収入が5.9兆円減少すると指摘されています。
人手不足により、日時・時間指定などのサービスの維持が難しくなり、利便性の低下などの影響もあるでしょう。
過去の物流クライシス事例
過去に物流クライシスが注目を集めた事例として、2013年佐川急便がAmazonの商品配達から撤退したことが挙げられます。
Amazonでは、全商品の配送料の無料化(一部を除く)や当日配達などの利用者サービスの向上を日々行なっています。荷物量の増加と時間制約の負担が大きくなるにつれて、佐川急便は利益率減少や人手不足などの課題に直面し、Amazonに対して運賃の値上げ交渉を行いました。ところが交渉は決裂し、業務の継続が難しくなった経緯があります。
現在はヤマト運輸が配達業務を担っていますが、キャパシティーを超える荷物量は続いており、ヤマト運輸においても物流クライシスが懸念されます。
物流クライシスが生じる原因
物流クライシスが生じてしまう背景には、次の要因が挙げられます。具体的に確認していきましょう。
- 労働環境によるドライバー不足
- ネットショッピングの拡大による小口配送の増加
- 2024年問題によるドライバー1人あたりの負担減少
労働環境によるドライバー不足
物流業界の深刻な課題の一つに、トラックドライバーの人手不足が挙げられます。
既存ドライバーの高齢化によって担い手が減少する一方で、時間外労働の増加や低賃金など、過酷な労働環境が原因で新たな人員確保ができない状況が続いています。
国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、2028年度には約27.8万人のドライバーが不足すると指摘されており、人員確保への取り組みが急務でしょう。
※ドライバー不足について「ドラ イバー不足(公開予定)」の記事も合わせてご覧ください。
ネットショッピングの拡大による小口配送の増加
ECサイトの普及により、インターネットショッピングの利用者が増大しました。
普及前は、卸業者〜実店舗への商品配送など、企業間での大口配送が中心でした。しかし現在は、個人宅への小口配送が増えており、ドライバーの業務負担増加が課題となっています。
また、個人宅へ荷物を届ける場合、家主の不在により一度で荷物を届けられない事案も少なくありません。再配達業務が追加され、ドライバーの負担は増加する一方となっています。
2024年問題によるドライバー1人あたりの負担減少
2024年問題とは、働き方改革関連法の適用により、ドライバーの時間外労働の上限規制によって生じる問題のことです。
上限規制により、ドライバーの働く環境が整備されるメリットはあるものの、人手不足が解消されないうちは、輸送できる荷物量が大幅に低下するおそれがあります。指定日に荷物が届かなくなるなど、物流トラブルが日常的になるリスクが懸念されています。
2024年問題の詳細は「2024年問題とは?物流業界の課題に挑む働き方改革とその対応策を解説」で説明しています。
物流クライシスからの脱却に向けて取り組むべき課題
ここからは物流クライシスからの脱却に向けて、取り組むべき課題を次の内容に沿って解説します。
- 配送料金の値上げ
- 再配達の削減
- 生産性の向上
配送料金の値上げ
物流業界が人手不足に陥ってしまった理由は、低賃金や過酷な労働環境が挙げられます。
配送料金を値上げすることで、ドライバーへ還元が可能となり、賃金の向上や労働環境の改善、人材の定着率向上が期待できるでしょう。
また、ECサイトの過度なサービス競争による利益率低下などの問題を見直すきっかけにもなります。
再配達の削減
個人宅向けの配達は、企業への配達とは異なり、不在で受け取ってもらえないケースが多くあります。国土交通省「宅配便再配達実態調査」によると、令和4年4月の宅配便再配達数は、30万9,530個(約11.7%)となっており、ドライバーにのしかかる業務負担が深刻化しています。
再配達の削減に向けた取り組みとして、コンビニエンスストアや宅配ロッカーでの受け取りができるサービスがあるものの、充分に普及していない状況です。再配達削減のための取り組みが進めば、トラックドライバーの負担軽減につながるでしょう。
生産性の向上
物流クライシスから脱却するためには、生産性を上げる取り組みも重要です。2023年におけるトラック積載率は約38%と低水準であり、一度に運べる荷物が少ない状況が生産性低下につながっているためです。
株式会社野村総合研究所「トラックドライバー不足時代における輸配送のあり方」によると、2030年までに積載率55%を実現できれば、需給のバランスは約-7%まで改善すると予測されています。積載率向上への取り組みが急務な状況だといえるでしょう。
積載率低下の原因の一つに、パレットや段ボールのサイズ違いによる「荷物同士のすき間」が指摘されており、資材の規格標準化が求められています。
トラックの積載率を改善できれば、一度に運べる荷物量が増加するため、生産性の向上が期待できるでしょう。
2030年 |
トラック積載率 |
需給バランス |
38% |
-35% |
|
55% |
-7% |
※受給バランス:需要に対する供給の割合
物流クライシスを乗り切るための改善事例
ここからは、物流クライシスを乗り切るための具体的な改善事例を紹介します。
- モーダルシフト(鉄道輸送)への取り組み
- フルトレーラの導入
- ドローンによる配送
- 物流倉庫の自動化
モーダルシフト(鉄道・船舶輸送)への取り組み
モーダルシフトとは、トラックなど自動車での輸送から、環境負荷がかかりにくい鉄道や船舶の輸送に切り替えることです。
鉄道輸送を利用すれば、一度に大量の荷物を運べるため、トラックドライバー不足の解消にもつながります。また二酸化炭素排出量はトラック輸送の約11分の1に抑えられます。
具体的な取り組みとしては、2017年9月にアサヒビール株式会社・キリンビール株式会社・サッポロビール株式会社・サントリービール株式会社の4社が鉄道を用いた共同輸送の運用を開始しました。
北陸エリアでは、年間1万台相当をモーダルシフトしたことで、年間2,700トンのCO2排出量削減を実現。さらに関西・中国〜九州間の共同モーダルシフトでは、4社合計で大型トラック2,400台相当を鉄道に切り替え、年間約1,500トン(従来比で約74%)のCO2削減につながりました。
ライバル社との連携による共同モーダルシフトの有効活用により、物流業界における課題を改善できた取り組み事例です。
フルトレーラ・中継地点の導入
ヤマト運輸では、大型トラックに巨大トレーラを連結した「スーパーフルトレーラー25(以下、SF25)」を国内で初めて導入を行ない、2017年秋から主要都市間の幹線輸送で運行を開始しています。
SF25の導入後、1人のドライバーが運べる輸送量が2倍となるなど、大幅な業務改善ができた事例です。
またヤマト運輸ではSF25の導入と並行して、総合物流ターミナルである「ゲートウェイ」の整備を進めています。ゲートウェイでは、仕分けや運搬作業が自動化されており、最少人数で正確な荷物の処理が可能です。
このゲートウェイを中継地点として、目的地まで複数のドライバーが運転を担う取り組みを実施。1人で長距離を運転する必要がなくなり、ドライバーの負担軽減が実現できています。
ドローンによる配送
物流クライシスを乗り切る手段の一つに「ドローン」が注目されています。ドローン物流は「空の産業革命」と称され、実用化が進めば人手不足や交通渋滞などの課題解決に向けて大きな一歩が踏み出せるでしょう。
企業の取り組みとしては、2023年1月11日佐川急便・イームズロボティクス・日本気象協会・サンドラッグの4社が、店舗から指定場所までドローンによる配送の実証実験を開始しました。実験結果を分析し、2025年に実用化を目指す方向となっています。
ドローンの実用化に期待が高まりつつあるものの、法律の規制や操縦者の確保など、さまざまな課題が残ります。ドローン物流の普及に向けて、国土交通省を中心に規制緩和や法整備が進められている状況です。
物流倉庫の自動化
物流倉庫では、昔ながらのアナログ文化が根強く残っており、業務のデジタル化が進んでいない企業も少なくありません。ドライバーへのスムーズな受け渡しや荷待ち時間の削減をするためにも、デジタル化による作業効率化への取り組みが重要となっています。
株式会社富士ロジテックホールディングス厚木事業所では、プラスオートメーション株式会社が提供する物流自動化ロボットサービス「RaaS」の、ソーティングロボットシステム「t-Sort」をアパレル物流現場へ導入した事例があります。
デッドスペースであった天井空間に「t-Sort」を配置することで、スペースの利用効率向上が可能に。また、ピッキングエリアとソーティングエリアをまとめることで、保管量増加と生産性の向上が実現しました。
物流クライシスを乗り切るには協力が不可欠
ドライバーの人手不足や小口配送の増加による物流クライシスがこのまま進めば、需要と供給のバランスが崩れ、配達現場がパンク状態に陥ります。
人員確保や効率化への取り組みは、多くの企業で行なわれていますが、課題は深刻化しており、自社だけでは解決できない事案になりつつあります。異業種やライバル企業も含めて、国内産業全体で協力して取り組むことが重要です。
富士ロジテックホールディングスでは、共同配送や元請け化など、運用コスト削減に向けた輸配送の統合プロジェクトをご提案しています。また全国に拠点を配置しているため、中継地としての利用や配送料金値上げへの対策もご相談いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。
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ライター
梅山茜
物流会社でEC発送代行のバックオフィス業務に従事する複業ライター。好奇心旺盛な性格で、過去に営業職や販売職、医療ソーシャルワーカーなどを経験。豊富な経験を活かして物流、医療・福祉、資格、ライフスタイル記事など幅広い分野の執筆を担当する。カテゴリー問わず、便利で使いやすい商品やサービスを求めて、ネットサーフィンを繰り返す日常を送る。趣味は旅行とレトロモダンなカフェ巡り。
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