
アパレルECとは、インターネット上で衣服や服飾雑貨を販売するサービスです。近年、アパレルECの市場は拡大傾向にあり、成功事例も多く見られています。
しかし、EC事業を運営するうえで、アパレル業界ならではの課題も存在します。本記事では、アパレルECの市場規模や成功事例、業界が直面する課題と対策を解説します。
アパレルECの市場規模とEC化率
現在のアパレルECの市場規模について、令和5年の調査結果をもとに以下のポイントを解説します。
- 2023年のアパレルECの市場規模は2.6兆円
- EC化率は22.88%
- アパレルECが成長している理由
2023年のアパレルECの市場規模は2.6兆円
経済産業省「令和5年度デジタル取引環境整備事業」の調査結果によると、2023年のアパレルECの市場規模は、2.6兆円となっています。物販系ECの分野では、以下のカテゴリーが2兆円を超える市場です。
分類 |
市場規模 |
食品、飲料、酒類 |
2兆9,299億円 |
生活家電・AV機器・PC・周辺機器等 |
2兆6,838億円 |
衣類・服装雑貨等 |
2兆6,712億円 |
生活雑貨、家具、インテリア |
2兆4,721億円 |
2兆円を超える企業は物販EC全体の7割を占めており、その中でもアパレルECは成長を続ける業界として注目されています。
出典:経済産業省「令和5年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」
EC化率は22.88%
EC化率とは、すべての商取引においてEC(電子商取引)が占める割合を指します。令和5年の調査におけるアパレル市場のEC化率は、22.88%という結果です。
令和5年物販系EC化率 |
|
書籍、映像・音楽ソフト |
53.45% |
生活家電・AV機器、PC・周辺機器等 |
42.88% |
生活雑貨、家具、インテリア |
31.54% |
衣服、服飾雑貨等 |
22.88% |
物販系のEC化率は「書籍、映像・音楽ソフト」が53.45%と最も高く、次いで「生活家電・AV機器、PC・周辺機器等」が42.88%、「生活雑貨、家具、インテリア」が31.54%です。
アパレルECは市場規模が大きいものの、EC化率はそれほど高くなく、市場規模とEC化率は比例していないことが分かります。
参照:経済産業省「令和5年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」
アパレルECが成長している理由
アパレルECが成長している理由として、消費者のニーズの変化が挙げられます。新型コロナウイルスの影響により、実店舗での買い物が制限され、オンラインショッピングの需要が急増しました。そうした制限がなくなった現在においても、試着なしでオンライン購入することへのハードルが下がり、アパレルECの需要は拡大傾向にあります。
また、インターネット環境の整備やモバイルデバイスの普及など、デジタル技術の進化もEC市場拡大を後押ししています。さらに、実店舗やECサイト、SNSなどの販売チャネルを活用して顧客と接点を持つオムニチャネル戦略の導入により、消費者の利便性が向上したことも成長の要因と考えられます。
このようにアパレル業界は、EC運営によって企業のブランディングに成功した事例も多く見られています。
<関連記事>「オムニチャネルとは?マルチチャネルとの違い・導入のメリットデメリットも解説」
アパレルECの種類と特徴
アパレルECは、主に下記の5つに分類されます。
- メーカー・ブランドの自社サイト
- ECモール
- オリジナルブランド
- ネットオークション
- サブスクリプション
それぞれの特徴を詳しく解説します。
メーカー・ブランドの自社サイト
アパレルECにおける自社サイトとは、メーカーやブランドが直接運営するオンラインストアを指します。例えば、ユニクロやGUも自社サイトを運営しています。
自社サイト型は、実店舗とECサイトを連携させるオムニチャネル戦略を積極的に導入しているのが特徴です。具体的には、ECサイトで購入した商品を店舗で受け取ったり、在庫情報を共有できたりと、顧客の利便性を高め、購買意欲の促進につなげています。
ECモール
ECモール型は、複数のブランドが集まるECサイトのことで、楽天市場やZOZOTOWNが挙げられます。自社でECサイトを一から構築する必要がなく、大手ECモールの集客力を活かした販売が可能です。
また、送料無料キャンペーンやポイント制度など、モール独自のサービスが活用できる点もメリットです。ただし、モールの規約に従う必要があり、サイトのデザインや機能のカスタマイズに制限があるため、自由度が低く自社ブランドの個性を出しにくいという課題があります。
ネットオークション
ネットオークションとは、インターネット上で行われる競売形式の取引です。代表的なサービスには、ヤフオクやメルカリがあります。メルカリは2025年2月よりオークション機能が追加されました。
企業が出店する場合は、Yahoo!オークションストアやメルカリShopsを利用することで、企業名義での販売が可能です。ネットオークションは幅広い年齢層が利用しているため、新たな顧客層の獲得が期待できます。
サブスクリプション
サブスクリプションとは、近年注目されている新たなアパレルECの取り組みで、定期的にファッションアイテムが届くサービスです。エアークローゼットやメチャカリなどが代表例です。
定期的な需要があるため、安定した収益が見込めます。その一方で、長期的にサービスを維持する必要があり、新たなトレンドを取り入れる工夫や、顧客層の拡大に向けた施策が求められます。
アパレルECの成功事例5選
アパレル業界ではEC事業の成功事例も多く見られています。以下の5つの成功事例を解説します。
- ユニクロ
- ZOZO
- アダストリア
- ベイクルーズ
- オンワードホールディングス
ユニクロ
ユニクロは自社サイト型のECサイトを展開し、2024年8月期の連結決算では、国内事業のEC売上高は1,369億円と成長を遂げています。ユニクロのECが好調な要因は、オンラインとオフラインを融合させたオムニチャネル戦略の強化です。
ECサイトで購入した商品を店舗で受け取る仕組みを導入し、利便性の向上と追加購入の促進を実現しています。さらに、AIチャットボット「UNIQLO IQ」によるコーディネートの提案や、スマホカメラで体型計測ができる「MySize ASSIST」の導入で、試着ができないEC販売の課題を解消し、販売促進につなげています。
出典:株式会社ファーストリテイリング「2024年8月期下期決算説明資料」
ZOZO
株式会社ZOZOが運営する「ZOZOTOWN」は1,600以上のショップ、9,000以上のブランドを取り扱う日本最大級のモール型ファッションECサイトです。(※2024年9月末時点)即日配送サービスやギフトラッピングサービス、さらに、支払いが2カ月後になる「ツケ払い」を導入し、若年層にも購入しやすいサイト運営が特徴です。
サイト上では、サイズや色の選択、カートへの追加がワンクリックで簡単に完了でき、購入までのプロセスを最短にする工夫が施されています。さらに、株式会社ZOZOが運営するファッションコーディネートアプリ「WEAR」では、投稿されたコーディネートから気になった商品をZOZOTOWNで購入できる仕組みを採用し、購買意欲を高める要因となっています。
アダストリア
アダストリアは「グローバルワーク」や「ニコアンド」など人気ブランドを展開するモール型ECサイトと、自社ブランドの「andST(アンドエスティ)」を運営する企業です。2024年2月期のEC売上は689億円で、前年比110%増を達成しています。
このような成長の背景には、andSTへの外部企業の出店数増加が挙げられます。これより、アパレルだけでなく、美容家電やコスメ、シューズ、インナーなどカテゴリーが充実し、売上の向上につながりました。
また、OMO型店舗として「ドットエスティストア」を複数展開し、新規顧客の拡大を図っています。さらに、スタッフのインフルエンサー化にも力を入れている点も特徴です。
個人SNSのフォロワー数が1,000万人に倍増したことで、ブランドの認知度向上に大きく貢献しています。
ベイクルーズ
ベイクルーズは、「JOURNALSTANDARD」や「IENA」など人気ブランドを展開するモール型ECサイトです。オムニチャネル戦略を強みとしており、多数のブランドの実店舗とECサイトをシームレスに連携することで、クロスユース(実店舗とECサイトの両方で購入する顧客層)の売上が伸びています。
また、ECサイト内の情報発信に力を入れているのも強みのひとつです。サイト内のブログでは、最新のトレンドアイテムの紹介やキャンペーン情報、ファッションのお悩み解決コラムなどが展開されており、Webコンテンツとして楽しめるのもポイントです。
さらに、ファッションのアドバイスを24時間受け付けるチャットボット機能や、着用イメージやサイズ感が分かるコーディネートスナップを搭載し、サイトの利便性も高めています。
オンワードホールディングス
オンワードホールディングスが運営する「オンワードクローゼット」では、自社ブランドの「組曲」「自由区」「23区」「TOCCA」だけでなく、「ワコール」や「CITIZEN」など幅広いブランドを取り扱っています。自社サイトとモール型サイトを併用することで、多様な販売チャネルを展開しています。
ECサイトでは、オンライン上にある在庫を店頭に取り寄せて試着できる「クリック&トライ」が魅力です。2024年時点で、404店舗がサービスを導入し、未導入店舗と比較して売り上げが17%増加する成果が見られています。
また、SNSのプロモーションやユーザー行動の履歴に基づいたメールの配信、「2buy・3buy(2点・3点購入割引)」など多様なキャンペーンを実施し購買意欲を高めています。
アパレルECの5つの課題
アパレルECは成長を遂げている一方で、以下のような課題を抱えています。
- 価格競争が激しい
- 店舗の利便性が高くEC化率が上がりにくい
- オンラインではサイズ感が分かりにくい
- 在庫管理が困難になる
- 人手が不足する
5つの課題を詳しく解説します。
価格競争が激しい
アパレル業界は、価格競争が激しいことが課題の一つです。アパレルECは需要が増加している分、競合が多く価格競争も激化しやすい市場です。
ファストファッションの台頭は低価格競争がさらに激化する要因となりました。自社サイトへの集客力を高め、ブランド価値を向上させる施策が欠かせません。
全体のコストを抑えるために、物流コストの削減などの対策も必要です。
店舗の利便性が高くEC化率が上がりにくい
アパレル業界では、実店舗ならではの利便性があるため、EC化率が他の業界に比べて上がりにくい状況です。そのため、実店舗とECのつながりを強化するオムニチャネル戦略や、オンラインとオフラインを融合したOMO型店舗を導入し、顧客の購買意欲体験を向上させる施策が推進されています。
オンラインではサイズ感が分かりにくい
アパレルECでは、衣類や靴などのサイズ感が分かりにくく、返品や交換作業が多い点が課題です。そのため、ARを活用したバーチャル試着や、AIチャットボットによるサイズの提案、スタッフの着用写真の提供など、購入前の不安を軽減する施策が必要です。
また、返品や交換作業が他業種に比べて多く、スピーディーな対応が求められます。
在庫管理が困難になる
アパレルECでは、商品のSKUが多く、販売チャネルが多岐にわたる傾向があるため、在庫管理が困難になる点が課題です。適切な在庫管理ができない場合、在庫過多により廃棄リスクや値下げリスクが発生したり、欠品により機会損失につながることもあります。
このような課題を解決するためには、在庫管理を一元化し、リアルタイムで在庫状況を把握できるシステムの導入が必要です。
人手が不足する
アパレルEC業界では、ECサイトの運営やデジタルマーケティングに必要なIT人材の確保が求められるため、人手不足も課題の一つです。また、EC事業の拡大に伴い、商品の出荷作業が増加すると、物流面でも人手が必要です。
特に、ギフトラッピングやチラシ同梱作業などアパレルECならではの対応が求められるため、業務負担が増加しやすい傾向にあります。人手不足の課題は、物流面を外部委託することで作業の負担を軽減できるでしょう。
アパレルECの課題を解決する物流倉庫の特徴
物流面の課題を解決するには、物流倉庫を活用するのがおすすめです。以下のような特徴を持つ物流倉庫を選びましょう。
- アパレルに適した保管体制
- 多品種に対応できる在庫管理
- ブランド価値を高める梱包・パッケージ
- 迅速な出荷オペレーション
- スムーズな返品・交換対応
アパレルに適した保管体制
アパレル商品は、サイズや素材が多様であるため、保管体制が整った物流倉庫を選びましょう。例えば、素材に応じた適切な温度管理、形状に応じた保管方法、今後の需要増加に対応できるスペース確保などが求められます。
多品種に対応できる在庫管理
アパレル商品はサイズやカラーのバリエーションが多く、高精度の在庫管理が欠かせません。適切な在庫管理により、欠品や過剰在庫を防ぎ、効率的な運営が可能になります。
倉庫管理システム(WMS)などのシステムが導入されている倉庫を選びましょう。
<関連記事>「EC物流はモールとAPI連携してさらに効率化!仕組みを紹介」
ブランド価値を高める梱包・パッケージ
アパレル商品は直接肌に触れるため、丁寧な梱包が重要です。他方、環境に配慮したパッケージやロゴ入りパッケージを採用することで、ブランドイメージが強化され、顧客満足度の向上につながります。そのため、オリジナルパッケージの提案や、チラシ同梱作業など、柔軟な流通加工ができる物流会社がおすすめです。
<関連記事>「サスティナブル梱包への取り組みでSDGsに貢献!梱包資材の事例も紹介」
迅速な出荷オペレーション
アパレルECでは、注文から発送までのリードタイムの短縮が求められます。出荷オペレーションの整った物流会社では、迅速かつ正確に顧客へ届けられるため、リピート率の増加が期待できるでしょう。
スムーズな返品・交換対応
アパレルECではスムーズな返品、交換対応が必須です。返品や交換対応が迅速にできる物流倉庫なら、問い合わせやクレーム処理にも十分な時間を確保でき、顧客にも安心感を与える適切な対応ができるでしょう。
<関連記事>「返品・交換の物流構築が売上に繋がるワケ!顧客体験向上のメリットを解説」
アパレルECを効率的に運用するなら富士ロジテックホールディングスがおすすめ
アパレルEC市場は2兆円を超え、ユニクロやZOZOTOWNなど成功事例が多数あります。その一方で、アパレルECならではの課題も存在します。
そのため、集客力の強化やブランド価値の向上、オムニチャネル戦略、徹底した物流管理などさまざまな対策が必要です。富士ロジテックホールディングスでは、受注管理から発送、返品処理まで一貫対応できる体制を整えています。
オリジナル梱包資材やチラシの同梱サービスなどにも柔軟に対応可能です。物流倉庫のアウトソーシングも視野に入れて、アパレルECを効率的に運営しましょう。
<関連記事>「アパレル物流とは?特徴と課題、おすすめの物流会社3選」


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ライター
森恵
貿易事務と物流代行営業の経験を活かし、専門知識に基づいた記事作成を行っています。お客様に寄り添い、分かりやすく役立つ情報を提供します。
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