物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
資源の枯渇や気候変動などの環境問題が現実味を帯びてきた昨今。「2050年までには、海中の魚より海洋プラスチックの数が上回ってしまうかもしれない」といわれるほど、事態は深刻です。
持続可能な社会を築くために、サーキュラーエコノミーの概念が、ヨーロッパから世界に広まっています。日本国内でも、政策として進めていく議論が始まっており、企業としては無視できない話題のひとつです。
当記事では、サーキュラーエコノミーとは何かを説明したうえで、推奨される背景や企業の取り組み事例を紹介します。取り組みをスタートさせる際の参考に、ご覧ください。
サーキュラーエコノミーとは
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、限りある資源を持続可能な形で活用しながら、経済合理性を欠くことのないように両立させる経済モデルです。ここではリニアエコノミー、3Rと比較しながら、解説します。
- リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ
- サーキュラーエコノミーと3Rの違い
リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ
画像出典:令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書|環境省
従来、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提としたリニアエコノミー(線型経済)が主体となってきました。地球から資源を採取し、製品を作り、最終的に廃棄する一方通行型のビジネスモデルです。さまざまな環境問題の原因になっています。
この経済モデルを改めるために、提唱されている概念がサーキュラーエコノミー(循環経済)です。資源の消費量を抑えながら、製品としての価値を最大化し、利用後はリサイクルによって原材料として循環させるビジネスモデルを指します。環境と事業の持続可能性を維持するために、必要な取り組みとしてサーキュラーエコノミーへの転換が求められています。
サーキュラーエコノミーと3Rの違い
ここまでの話だけでは、サーキュラーエコノミーと3R(リデュース、リユース、リサイクル)を混同しやすいでしょう。簡単にいえばサーキュラーエコノミーは、3Rが進化した概念ともいえます。
そもそも3Rは、「リデュース:ゴミを減らす」「リユース:ゴミにせず再利用する」「リサイクル:ゴミにせず、再資源化する」の頭文字3つのRをとった言葉です。廃棄物が出る前提のもと環境保全活動として、1999年に循環経済ビジョンに掲げられました。
サーキュラーエコノミーには、再生素材や再生可能資源を積極的に利用するリニューアブルの考え方が加わります。また付加価値を生み出す経済活動であることも、サーキュラーエコノミーの特徴です。
従って、サーキュラーエコノミーと3Rの違いには、「廃棄を前提としているか、否か」「経済活動であるか、どうか」という2つの観点が挙げられます。
エレンマッカーサー財団が提唱するサーキュラーエコノミー
エレン・マッカーサー財団は、世界のサーキュラーエコノミーを推進する団体です。2010年にイギリスで設立され、サーキュラーエコノミーについて研究や発信を行っています。サーキュラーエコノミーを深く理解するために、エレン・マッカーサー財団の考え方を知ることが有用です。ここでは以下、2つについて解説します。
- サーキュラーエコノミーの3原則
- サーキュラーエコノミーを表すバタフライ・ダイアグラム
サーキュラーエコノミーの3原則
エレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの3原則を掲げています。以下の通りです。
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What is a circular economy?|The Ellen MacArthur Foundationを引用のうえ、日本語訳
企業に対する評価、スコアリングの枠組みとして、「1つ以上に該当し」「かつ2つに逆行しないこと」を定めています。
サーキュラーエコノミーを表す「バタフライ・ダイアグラム」
画像出典:The butterfly diagram: visualising the circular|The Ellen MacArthur Foundation
サーキュラーエコノミーには、2つの循環サイクルが内包されています。2つのサイクルを描く概念図が、蝶のように見えることから「バタフライ・ダイアグラム」と呼ばれています。
エレン・マッカーサー財団では、概念図で表わされている内側の小さい円ほど、優先されるべきであるといわれています。以下、2つのサイクルについて理解しましょう。
- 生物サイクル(バイオロジカルサイクル)
- 技術サイクル(テクニカルサイクル)
生物サイクル(バイオロジカルサイクル)
図の左側にあたる生物サイクルは、木材や食品などの再生可能な資源を、自然界に戻すサイクルです。
堆肥化や嫌気性消化と呼ばれる技術による無害化を行い、環境に安全に還元します。また製品や原料の、用途や形状を変えて再利用するカスケード利用も生物サイクルの優先すべき手段として示されています。
技術サイクル(テクニカルサイクル)
一方で、図の右側にあたる技術サイクルは、枯渇する可能性があり、安全に自然界に還元しづらい材料を扱います。例えば、鉄や金属、プラスチックなどが該当します。技術サイクルでは、資源の価値を最大限に保ちながら、できるだけ長い間、経済システムの中で循環させることが目標です。
優先すべき順に、製品のシェアリング、メンテナンス、再利用、再製造、リサイクルが手段として挙げられています。
<関連記事>「【成功事例あり】レンタルビジネスのメリット・デメリット」
サーキュラーエコノミーが推奨される背景
サーキュラーエコノミーが推奨される背景には、天然資源の枯渇や気候変動、生物多様性の破壊が進む現状があります。
世界の人口と消費は拡大傾向です。2020年から2050年までの30年間で廃棄物量が倍増※すると予想されています。※2020年:141.2億トン、2050年:320.4億トン
なお、すでに地球への影響は顕在化しています。世界の平均気温は、2011年から2020年で1.09℃上昇、脊椎生物の個体群は、1970年〜2018年の間に地球全体で平均69%減少しているのです。
廃棄を前提とした使い捨ての習慣を見直し、環境への負荷を減らすために、サーキュラーエコノミーが推奨されています。
サーキュラーエコノミーを実現するポイント
サーキュラーエコノミーでは、調達、製造、小売などの動脈物流と廃棄物処理、リサイクルなどの静脈物流の連携が不可欠です。企業活動の全体を通じて、循環を生み出さなければなりません。サーキュラーエコノミーを実現するポイントとして、以下3つを紹介します。
- デザインからの革新
- ビジネスモデルの転換
- デジタル技術の活用
デザインからの革新
サーキュラーエコノミーでは、デザイン段階による循環に考慮した設計が重要です。
再生可能、または再利用が可能な原料や素材を選び、循環を図る必要があります。また、循環サイクルの中で自然界に戻しやすい再生可能資源と、そうでない枯渇性の有限資源は、分離して処理できるような設計が必要です。
リニアエコノミーでは、製品の利用後まで考慮された設計はされていません。デザインからの革新によって、サーキュラーエコノミーを実現しやすくなります。
ビジネスモデルの転換
サーキュラーエコノミーの実現には、ビジネスモデルを転換する視点も重要です。シェアリング、サブスクリプション、レンタル、リースなど、リコマースの推奨が進んでいます。
<関連記事>「循環型社会を目指すリコマースとは?事例や課題への対策を解説」
リコマースを始めるには、リペアやメンテナンスを含むリバースサプライチェーンの仕組み構築が必要です。動脈物流だけでなく、静脈物流にも目をむけなくてはなりません。
<関連記事>「リバースロジスティクスとは?ECで返品物流に取り組む重要性を解説」
デジタル技術の活用
サーキュラーエコノミーでは、デジタル技術を活用して、製品のライフサイクル全体を追跡できる状態を目指します。
欧州が導入を進める「デジタル製品パスポート」では、生産、流通、消費者までのトレーサビリティを確保しています。それだけでなく、製品寿命や製品生産時のCO2排出量までデータとして管理され、企業は開示が求められます。消費者はQRコードやICチップを読み取ることで、データへのアクセスが可能です。
ライフサイクルの透明性を向上し、無駄を見える化することが、サーキュラーエコノミーの促進に繋がります。
サーキュラーエコノミーへの企業の取り組み事例
次にサーキュラーエコノミーに取り組む企業の事例をチェックしましょう。以下の3つを紹介します。
- 【リバースサプライチェーンに注力する事例】トヨタ自動車・豊田通商
- 【アパレル商品の長寿命化事例】ファーストリテイリング・ユニクロ
- 【海洋プラスチックゴミの活用事例】GOTBAG
【リバースサプライチェーンに注力する事例】トヨタ自動車・豊田通商
トヨタは、サーキュラーエコノミーに向けて精力的に取り組む企業の1社です。
車載用電池については、2025年を目標に長寿命化、グローバル規模の3R、最大限の回収と無害化を目指して具体的な取り組みが進められています。
また、廃棄になった車体も回収を行っています。スクラップは加工をして販売、活用できる中古部品も、EC事業で販売しています。そのほか、可能な限り再生資源として金属や樹脂などをサプライチェーンへ循環していることもこの事例の特徴です。これらの取り組みと同時に廃棄物をデータで管理し、データの提供やPDCAサイクルを図っています。
<関連記事>「リバースサプライチェーン 返品管理システム (RMS) オムニチャネル・Eコマースでのメリット」
【アパレル商品の長寿命化事例】ファーストリテイリング・ユニクロ
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、アパレル商品の長寿命化に取り組んでいます。
リサイクル素材や温室効果ガスの排出量が少ない素材を使った商品の割合を、30年度までに50%に引き上げる方針です。不要となった服を回収し、世界の難民や国内避難民に提供する取り組みも実施しています。また、安価でリペアやリメイクができる店舗は拡大傾向です。
一方で商品の長寿命化は、企業にとって売上にマイナスの影響を与えかねません。そうした側面に臆せずブランドイメージの向上を最優先し、ビジネスチャンスを創出している事例です。
【海洋プラスチックゴミの活用事例】GOTBAG
ドイツ発のGOTBAGは、海洋プラスチックゴミからバッグを生み出しているリサイクルバッグブランドです。
深刻な環境問題の一因となっている海洋プラスチックゴミ。これをインドネシアの漁師に協力を得て回収し、海洋PETペレットの生地に加工して、バックパックやヒップバックなどを生産、販売しています。
ゴミの活用を前提にビジネスモデルをデザインしており、バックパック1つで約3.5kgの海洋プラスチックゴミをリサイクルできます。エコで実用的、かつおしゃれを実現している海外の事例です。
サーキュラーエコノミーをスタートしよう!
サーキュラーエコノミーの実現は、限りある資源を有効活用するために、必要な取り組みです。環境問題は逼迫した状況にありますが、企業として付加価値を創出するチャンスでもあります。
サーキュラーエコノミーを実現するには、回収の工程が欠かせません。富士ロジテックホールディングスでは、フルフィルメントサービスを提供すると同時に、静脈物流にも取り組んできました。リユース品の取り扱いが可能なほか、流通加工にも対応しております。
シェアリング、サブスクリプション、レンタル、リース、再販などのビジネスモデルをお考えの際は、ぜひご相談ください。
サービスの詳しい紹介は以下をご覧ください。
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ライター
田中なお
物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
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