物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
トラックドライバー不足の深刻化が懸念されています。法改正、EC市場の拡大、ドライバーの高齢化など、さまざまな原因が複雑に絡まり合い、商品の安定供給が危ぶまれる昨今。賃上げや効率化の対応が急がれているのが現状です。この問題は対企業への輸送、対個人への宅配、どちらにも共通していえます。
当記事ではドライバー不足の現状や原因を深掘りして解説します。課題を理解したうえで、どう乗り越えていくかを考えていきましょう。
運送業界ドライバー不足の現状
日本ロジスティクスシステム教会によると運送業界におけるドライバー不足の影響で、2030年には輸送需要に対して3割以上の荷物が運べなくなると試算されています。
それにも関わらず、有効求人倍率は全職業平均の約2倍で推移。有効求人倍率とは、求職者に対して求人がいくつ出ているかを示すものです。つまりドライバー職を希望する人材の少なさが物流を逼迫させてしまっているのが、現状といえます。
労働環境や収入面を改善し、魅力のある業界作りが必須な状況です。
ドライバー不足が招く物流クライシスについて「物流クライシスとは?原因と課題、脱却に向けての改善事例を簡単に解説」の記事で解説しています。
ドライバー不足の原因
ドライバー不足には複数の原因があります。改善手段を考える糸口として、確認しておきましょう。
EC市場の拡大
ドライバー不足のうち、宅配業界についてはEC(ネット通販)市場の拡大が影響しています。ECの市場規模は2019年から2021年にかけて、コロナ禍の巣篭もり特需により約2割拡大しました。JCB消費NOWによると2022年は横ばいの傾向にあるものの、諸外国と比べてEC化率の低い日本では、まだまだ伸長の余地があります。宅配ドライバーへ新規参入する人も増加していますが、その数は追いついていないのが現状です。
ドライバーの高齢化
年齢が高いドライバーが多い傾向にあるのも、今後人手不足がますます懸念される原因です。全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業 現状と課題2022」では、令和3年におけるドライバーの年齢構成比は40歳未満が全体の24.1%、40歳以上50歳未満が29.1%、50歳以上が45.2%を占めているとされています。50歳以上の層が退職すれば、ドライバー不足が避けられません。
賃金の安さ
賃金の低さもドライバー不足の原因として挙げられます。ドライバーの年間所得額は、大型トラックのドライバーで約5%、中小型トラックで約12%、全産業の平均より低いと厚生労働省の調査で発表されています。
2023年現在、賃金向上への取り組みが始まっていますが、大きな改善は見られません。
労働時間の長さ
賃金の安さだけではなく、労働時間が長いことも人手不足に拍車をかける要因です。
企業間輸送のドライバーは長距離運転や休憩時間の規制、待機時間の発生により拘束時間が長くなりやすい特徴があります。そのため、年間労働時間は全産業との平均より大型トラックで432時間長く、中小型トラックで372時間長いという結果が出ています。
働き方改革関連法案で改善に向かう傾向はある一方で、低賃金化が進むのではないかとも懸念されています。
2024年問題によりドライバー不足が加速する可能性
物流の2024年問題により、さらにドライバー不足が加速すると予想されています。
2024年問題とは、働き方改革関連法案の影響によって物流業界に生じる諸問題です。自動車運転業務に対した「時間外労働の上限規制」の適用などが挙げられます。36協定を締結する場合において年960時間に規制され、長距離輸送に影響が出る見込みです。ここでは2024年問題について、ドライバー不足にどのような影響を及ぼすのか解説します。
ドライバー必要人数の増加
長距離輸送では、従来1人のドライバーで輸送していた運行距離を2人のドライバーで運ばなければならない区間が発生します。必然的にドライバーの必要人数は増えるでしょう。労働環境を改善する取り組みである一方で、ドライバー不足を加速させる可能性が危惧されています。
運送会社の減少の恐れ
1運行に必要なドライバーの人数が増えることは、すなわち運送会社の利益率低下を意味します。業務効率化が求められるため、人材確保を考慮すればドライバーの賃上げも図っていかなければ、現役のドライバー離れも懸念事項です。
すでに原油高により倒産する運送会社も増加しており、物流業界をあげてサポートが必要となってきました。
物流の2024年問題については「2024年問題とは?物流業界の課題に挑む働き方改革とその対応策を解説」で詳細に解説しています。
海外におけるドライバー不足の動向
アメリカではドライバー不足がピークを越え、緩和されつつあります。2021年には推定80,000人のドライバーが足りず、配送期間は数週間から数ヶ月先まで伸びたといわれています。需要と供給のバランスが崩れ、ドライバーの給与水準は上がり、小売大手のウォルマートが初年度年収約1,400万円をドライバーに支払うと発表したことも話題となりました。
その後も状況は悪化するだろうと指摘されてきましたが、2022年にはゆるやかに緩和され、ドライバーの不足人数は約78,000人に推移。
「荷量の減少」「自動走行技術の実用化による実走行距離の減少」が緩和の要因と考えられます。
ドライバー不足を解消するための対策
ではドライバー不足を解消するには、どのような対策をすれば良いのでしょうか。次の4つを詳しく解説します。
- 共同配送の実施
- モーダルシフトの推進
- 自動走行技術の活用
- 中継輸送の推進
- 分散拠点の配置
対策1.共同配送の実施
「共同配送」は積載率を向上し、ドライバー1人あたりが運べる荷量を増やすために有効な対策です。企業や業種間をまたぎ、1台のトラックに混載して荷物を運ぶ取り組みが進められています。
また従来、長距離輸送の帰り道は空車回送であることも多い傾向にありました。行きはA社、帰りはB社、と固定の共同配送パートナーを見つけることで、空荷でドライバーが走る無駄も避けられます。
対策2.モーダルシフトの推進
トラックから鉄道や船舶に輸送手段を切り替える「モーダルシフト」は、ドライバー不足解消に直接関わる対策です。貨物列車26両分は10tトラック約65台分、船舶1隻は約160台分に相当します。
輸送に時間がかかり積極的に進められてこなかった側面もありますが、ドライバー不足への対応が急務になり、取り組みを進める企業が見られるようになってきました。
対策3.自動走行技術の活用
アメリカの改善例にもあるように「自動走行技術」の活用も、ドライバー不足解消の対策として挙げられます。
2024年には高速道路である新東名に自動運転レーンが設置される予定です。2024年問題を想定し、自動運転によりドライバーの休憩時間にあてることで、省力化
する狙いがあります。また、宅配においても2023年4月より公道を宅配ロボットが走行できるようになり、省人化が期待できます。
対策4.中継輸送の推進
「中継輸送」は、ドライバーの長時間労働改善に寄与します。これまで長距離輸送においては、10時間以上の運転を1人のドライバーが担っていました。中継地点を設け、ドライバーの交代や荷物の積み替えにより、時間外労働を削減できます。
ドライバーは宿泊することなく、家に帰宅できるようになるため、労働環境の改善が期待できるでしょう。人材の確保に有効に働きます。
対策5.分散拠点の配置
荷主が「分散拠点」を取り入れることも、魅力的な業界作りへの対策のひとつです。遠方への配送が多い場合、保管拠点を複数に分散することで、配送コストの削減になる可能性があります。
同時にドライバーの長距離輸送および時間外労働の削減にもつながります。ドライバー不足解消に向けた取り組みといえるでしょう。
ドライバー不足に向けた対策を始めよう
ドライバー不足には高齢化や、労働環境、市場の拡大、法改正など多くの要因があります。また宅配と企業間輸送においてもそれぞれの課題があり、民間をあげて一つひとつ解決していかなければなりません。
物流を利用する事業者としても対策を始めなければ、結果として商品が運べず、利益拡大の妨げになることも考えられます。
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ライター
田中なお
物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
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