
物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。

EC市場の拡大により小口配送需要は増加する一方で、現場では深刻な人手不足が続いています。2030年には労働人口の約30%が65歳以上となり、人手不足は一層深刻化しかねません。
労働力不足、それに伴う配送の遅延、物流コストの上昇ーーこれらは多くの物流担当者が抱える課題でしょう。こうした状況を打破する解決策として、多くの企業が注目しているのが物流DX(デジタルトランスフォーメーション)です。
この記事では、物流DXの基礎知識や物流業界の課題、DX推進へのポイントを解説します。単なるシステム導入ではなく、物流業務全体のあり方を根本から見直し、持続可能な新しいビジネスモデルの構築を目指しましょう。
物流DXとは
物流DXを実現するために、まずはDXの本質への理解が不可欠です。ここでは、以下の2点について解説します。
- そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは
- 物流DXの定義と2つのアプローチ
そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは
経済産業省によって策定された「デジタルガバナンス・コード3.0」では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を次のように定義しています。
”企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。” |
つまり、デジタル化や機械化はDXの手段であり、いちステップです。技術を活用した業務プロセス、ビジネスモデル、企業文化・風土の変革が目的に位置付けられます。
DXの実現には、次の手順を踏む必要があります。
- デジタイゼーション:デジタルツールの導入
- デジタライゼーション:自社・外部を巻き込んだプロセス全体のデジタル化
- デジタルトランスフォーメーション(DX):組織やビジネスモデルの変革
こうした前提を理解したうえで、物流DXに取り組みましょう。
物流DXの定義と2つのアプローチ
DXの定義を踏まえ、物流DXとは、機械やデジタル技術の導入によって、既存オペレーションから物流業のビジネスモデルそのものまでを革新させることです。
物流DXを推進する手段は、「物流分野の機械化」と「物流のデジタル化」の2つに分けられます。2つの手段を相互に連携させることによって、情報やコストが可視化され、個別最適化されてきた業務プロセスを標準化する効果が期待できます。
<物流分野の機械化>
● 自動配送ロボット ● 自動運航船 ● 倉庫内作業の自動化 ● ドローン配送 |
<物流のデジタル化>
● 手続きの電子化 ● 求貨求車マッチングサービス ● 点呼や配車管理のデジタル化 ● トラック予約システムの導入 ● AIを活用したオペレーションの効率化 ● 物流・商流データ基盤の構築・共有 |
出典:国土交通省 総合政策局物流政策課,最近の物流政策について,2021年1月22日
物流DXは、物流業界が抱える課題を解決する糸口となる手段であり、多くの企業でDXに向けた取り組みが実施されています。
物流業界が直面する4つの課題
ではなぜ、物流DXに注目が集まっているのでしょうか。ここからは、物流DXが解決しうる物流業界の課題を4つ解説します。
- 小口配送の増大
- 物流2024年問題への対応
- 労働力不足の2030年問題への対応
- 労働環境の悪化
課題1.小口配送の増大
国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、令和4年度が22.7兆円、令和5年度が24.8兆円になり、前年比9.23%の増加となりました。
EC市場の急成長によって、個人向けの小口配送の需要は年々高まっています。この結果、消費者の即日・翌日配送の期待が高まる一方、倉庫では小口単位での迅速なピッキング・仕分けが求められ、宅配現場ではドライバー不足や再配達負荷が深刻化しています。
今後も増え続ける小口配送に対応するためには、倉庫内のオペレーション自動化、配送ルート最適化、再配達削減など、サプライチェーン全体での効率化が急務です。
出典:経済産業省,令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました,2024年9月25日
課題2.物流2024年問題への対応
働き方改革関連法の施行によって、時間外労働時間の上限規制が適用されました。業種によって移行猶予期間が設けられており、物流業は2024年3月に猶予期間が終了し、2024年4月より「時間外労働時間:年960時間の上限規制」が適用されています。
猶予期間があったものの、ドライバーの確保や人員配置などの対応が十分ではなく、大きな課題となっています。物流現場では「時間内に業務を終えられるよう、予定を詰めるなど、ドライバーの個人努力でなんとか運用している」といった声も挙がっています。
時間外労働の上限規制は、ドライバーの負担軽減のための措置でしたが、物流現場の一部では、ドライバーの負担が増加してしまっているのが実情です。配送効率の向上や、自動運転技術が求められています。
<関連記事>「2024年問題とは?物流業界の課題に挑む働き方改革とその対応策を解説」
課題3.労働力不足の2030年問題への対応
内閣府「令和6年版高齢社会白書」を参考に作成
また、労働力不足の「2030年問題」も大きな課題です。2030年問題とは、高齢化に伴う労働人口の減少により、企業全体で人手不足や人件費上昇などの問題が顕在化する社会問題のことです。
内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、2030年には日本総人口の約30%が65歳以上の高齢者となり、さらに労働人口が減少する、と予測されています。
労働人口の減少により、今後は物流業界だけでなく、日本全体で労働者不足が加速していきます。これに伴い物流コストの増大は避けられません。業務効率化や運用フローの見直し(荷待ちや荷役)、人材確保・定着の促進、労働環境の改善などの取り組みが急務となるでしょう。
<関連記事>「物流業界の人手不足が深刻化!現状と原因、対策を解説【2023年最新】」
課題4.労働環境の悪化
運送業界では、人手不足による労働環境の悪化も課題の一つです。
国土交通省「最近の物流政策について」の資料によると、労働時間は全職業平均より約2割長く、年間賃金は全産業平均より約1割~2割低い、という結果が出ています。また、商習慣による、商品のバラ積みバラおろしといった体力仕事も課題のひとつです。
時間外労働の上限規制も重なり「業務負担が大きい」、業務時間や内容の割に「賃金が低い」という労働環境の悪化が深刻な課題です。
上記のような課題にお悩みの方は、物流DXを推進している富士ロジテックホールディングスの物流代行サービスをご検討ください。無料相談受付中です。
物流DXが進まない理由|物流DXの推進を阻む課題
このように、物流業界は多くの課題が山積みです。市場動向や消費者のニーズの変化に対応が間に合っていない現状があります。生産性の向上が不可欠です。
その一方で、業界全体に紙を利用したオペレーションや手作業が根付いており、他産業と比較してDXに遅れをとっているのが現状です。なぜ、物流DXの推進は遅れているのでしょうか。物流DXの推進を阻む課題に焦点を当てて、解説します。
- 「何を目的とするか」が明確でない
- 社内に知見がない
- 現状把握ができていない
「何を目的とするか」が明確でない
物流DXが進まない理由の1つ目は、目的が明確でない点です。デジタル化・機械化そのものを目的化してしまい、「どんな成果を目指すのか」がはっきりしないケースは少なくありません。
例えば、目的が「短期的な目線の省人化」のケースと、「長期的な目線の持続可能性」のケースでは、投資回収への考え方も異なるはずです。
物流DXの推進にあたって、事業規模によっては、早期に投資回収が見込めない可能性もあります。そのときにどのような判断をするべきか、目的に軸を定めて検討する必要があります。
社内に知見がない
物流DXが進まない理由の2つ目として、社内の知見不足が挙げられます。
「何から手をつけるべきかわからない」「専門知識を持つ人材がいない」といった課題が壁になります。DXはIT部門・現場・経営層の連携が不可欠ですが、特に中小企業は社内だけでそれを実現するのが困難な場合もあるでしょう。
解決のポイントは、外部パートナーのノウハウを活用し、小規模なPoC(概念実証)から段階的に進めることです。
※PoC:本格導入前に小規模テストを行い、効果や課題を確認する試験運用
現状把握ができていない
物流DXが進まない3つ目の理由は、現場の現状を正確に把握できていないことです。
現状のオペレーションや業務負荷が可視化されていなければ、どこに課題があるのか、どの部分を改善すべきかが見えません。そうなれば、KPI(重要業績評価指標)の設計はおろか、進捗管理も成り立たないでしょう。
例えば、以下のようなデータを収集・分析します。
- 1日あたりの出荷件数や作業者数、平均処理時間
- 誤出荷件数や返品件数
- 繁忙期と閑散期の業務量変動
現状把握は、物流DXの最初の一歩です。
物流DXのソリューションを提供する企業
次に、物流DXのソリューションを提供する企業の一部を紹介します。物流の機能別に分類しましたので、導入を検討する際の参考にご覧ください。
物流機能 |
ソリューション例 |
提供企業(サービス)例 |
受発注 |
OMS+WMS自動出荷連携 |
ロジレス(LOGILESS) コマースロボ(コマースロボティクス) |
ピッキング |
ピッキング支援システム AGV・AMR(無人搬送車) |
Rapyuta Robotics(ラピュタPA-AMR) ギークプラス(PopPick) |
仕分け |
自動仕分けロボット AGV・AMR(無人搬送車) |
DAIFUKU 伊東電機 プラスオートメーション(t-Sort) ギークプラス(S20シリーズロボット) Gaussy(Roboware) |
保管 |
自動倉庫 マテハン設備 |
DAIFUKU オカムラ(AutoStoreの国内導入パートナー) IHI Rapyuta Robotics(ラピュタASRS) RENATUS ROBOTICS(RENATUS) CUEBUS |
荷役(積みおろし) |
自動フォークリフト 搬送ロボット |
豊田自動織機 DAIFUKU Mujin(MujinRobot) |
配車・輸送管理 |
配車管理システム 配送ルート最適化 |
OptiMind(Loogia) ライナロジクス(LYNA 自動配車クラウド) |
トラックバース予約 |
トラック予約・バース予約システム |
Hacobu(MOVO) モノフル(トラック簿) シーイーシー(LogiPull) |
共同配送マッチング |
共同配送マッチングプラットフォーム |
日本パレットレンタル(TranOpt) SST(SST便) |
マテハンを取り扱う大手企業からスタートアップ企業まで多くの企業が台頭し、工程ごとに課題を解決するソリューションが生まれています。
一方で、課題感だけでなく、規模感による選択肢も増えているのが昨今の傾向です。小さく始められて拡張性のある設備やサービス、月額制で初期導入費用を抑えられるサービスなどが挙げられます。
自社の課題や規模感にあうソリューションを検討してみてください。
物流DX導入事例
ここからは、物流DXの導入事例を2つ紹介します。
- 福岡運輸:バース予約・受付システムの導入
- トランコム:保管・ケースピッキング業務の自動化
福岡運輸:バース予約・受付システムの導入
福岡運輸では、2019年1月より「バース予約・受付システム」の導入を行っています。同社では、荷物の搬入が重なった際に、倉庫への受付や荷下ろしなどに「待機時間」が発生していることが課題でした。
そこでバース予約・受付システムを導入。携帯電話などを利用して、搬入の事前予約や受付、バースへの誘導連絡、進捗確認が行えるようになりました。受付後は、SMSやメールによってバースへの呼び出しや誘導の指示を受けたり、作業の進捗状況を確認したりできるため、業務を計画的に行える効果があります。
ドライバーの労働時間の短縮にも繋がり、人手不足解消の手助けとなっています。
<関連記事>「なぜドライバー不足が加速しているのか、物流崩壊危機の現状と対策」
トランコム:保管・ケースピッキング業務の自動化
トランコムが行った取り組みは「保管・ケースピッキング業務の自動化」です。同社では、物流センターにおける、労働力不足が課題に挙げられていました。
労働者不足の改善を図るために、導入した技術が「自動搬送ロボット」です。同社では、アイテムを保管ロケーションへ移動する業務を、ロボット搬送に切り替えたことで、作業が自動化され、作業料30%の削減を実現しました。
ピッキング業務の自動化は、システム導入に一時的なコストが発生するものの、省人化が叶い、人件費のコストダウンや人手不足解消に役立ちます。また、商品の取り間違いなどの人的ミスをなくせるため、作業効率向上にも大きな手助けとなるでしょう。
富士ロジテックホールディングスのDX事例
当メディアを運営する富士ロジテックホールディングスも物流代行サービスを提供するにあたり、物流DXに取り組み、物流コストの抑制と省人化を図っています。ここからは、弊社の物流DX事例を紹介します。
- 自動搬送AGV「t-Sort」
- 重量搬送AMR「JUC-S800R」
- 自動出荷「OMS・WMS一体型システム」
自動搬送AGV「t-Sort」
富士ロジテックホールディングスでは「t-Sort」を導入したことで生産性が大幅に向上しました。
自動搬送AGV「t-Sort」とは、無人搬送車のことです。従来、手作業で行っていた仕分け・搬送作業をロボットが代替して作業します。具体的な数値は以下のとおりです。
作業内容:「100SKU、10,000pcsの返品仕分け」 ● 手作業 作業員30人で、1時間あたりの仕分け量「41.7pcs」 ● 物流自動化ロボット「t-Sort」 作業員5人で、1時間あたりの仕分け量「250pcs」 |
t-Sortを利用すると、配置人数を25人減らしているにもかかわらず、仕分け量は手作業の約6倍という結果が出ています。作業効率・生産力の高さが圧倒的であることが分かります。
また、t-Sortで処理できる作業は、返品仕分けだけではありません。SKU仕分けや品番仕分け、カテゴリ仕分け、再出荷別仕分けなど、さまざまな仕分けに対応可能です。物流の波動のピーク時にあわせて人を確保する必要がなくなるため、人件費が高騰する昨今の物流コスト抑制対策になります。
t-Sortの活用により、作業員が倉庫内を行き来する必要がなくなり、作業時間短縮や人手不足解消に大きく役立っています。
<関連記事>「t-Sort」(近日公開予定)
重量搬送AMR「JUC-S800R」
比較的、重量のある商品を取り扱う富士ロジテックホールディングス ALFALINK相模原物流センターでは、重量搬送AMR「JUC-S800R」を導入しています。
「JUC-S800R」は、架台に商品を積載したパレットを載せて自動搬送できる無人搬送車です。最大積載量800kgのAMRにより、重いモノを運んでいた人の作業負担軽減に成功。
また横に200m、縦に70mの広大なワンフロアでは、フォークリフトや人の移動に無駄が生じていたところ、移動距離の短縮も実現しました。
業務を効率化した結果、人でなければ難しい作業により集中できるようになり、作業環境も改善されました。
自動出荷「OMS・WMS一体型システム」
OMS・WMS一体型システムとは、受発注管理が一体となったシステムのことです。受発注システムが異なると、受注管理~出荷指示までの処理を手作業で行う必要があります。
富士ロジテックホールディングスが利用するOMS・WMS一体型システムでは、ほとんどのECカートやECモール、EC関連システムとAPI連携が可能です。連携することで、受注の約90%以上(※)の自動出荷を実現できています。
※特定のシステムを利用した場合
また、OMS・WMS一体型システムの活用により、出荷指示などの人的作業の省人化や手作業による指示の抜け漏れを防ぐ対策にも有効です。
自動出荷により、物流業務負担が軽減されるため、EC事業者様は商品の施策検討や新商品の開発など、本来の業務に集中できるメリットも享受できます。
このように富士ロジテックホールディングスでは、多角的な物流DXを推進しています。物流DXをお考えの方は、ぜひ物流代行サービスの利用もご検討ください。
<関連記事>「ECの発送の手間を簡素化!自動出荷システムで解決できることと代表的なシステムを紹介」
<関連記事>「ロジレスとShopifyを連携して出荷を自動化!メリットや料金、注意点を解説」
【物流DX】システム導入のポイント
ここからは、物流DXに向けてシステムを導入する際のポイントを3つ解説します。
- 全社的に取り組む
- DX推進に精通した人材確保
- 段階的に進めていく
全社的に取り組む
物流DXを進めるには、経営者層から現場の従業員まで会社全体で取り組むことが重要です。システムを活用した実業務を担うのは、現場の従業員であるためです。物流DXに向けた機械化・デジタル化への理解や納得を得られなければ、運用が難しくなる可能性があります。
物流DXに向けて動き出す際は、現状の課題やシステム導入の目的、物流DXによって期待できる効果を事前に従業員に周知しておくことで、円滑に移行できるでしょう。
DX推進に精通した人材確保
物流DXの推進には、DXの知識を有する人材の確保が重要です。DXは業務全般の見直し(変革)をすることであり、DX推進に精通した人材を中心に、各部門のシステム構築や業務内容の見直しを検討するプロセスが必要になるためです。
自社で人材の確保が難しい場合は、DX推進へ向けたサポートを担う外部サービスの活用も有効です。
段階的に進めていく
物流DXへ円滑に移行するには、段階的に進めることが大切です。一度に大きな変更をすると、予期せぬトラブルが発生した際に、通常業務に支障が出るおそれがあるためです。
また、突然の方針転換は従業員のモチベーション低下につながるケースもあるので、短期間で効果が実感できる業務から取り組むなど、慎重に進めましょう。
物流DXに向けたシステム導入は富士ロジテックホールディングスにお任せください
物流業界は、EC市場の急成長による小口配送量の増加や人手不足、労働環境の悪化などが課題であり、業務効率化に向けて運用フローの見直しや労働環境の改善が急務となっています。
物流DXは、物流の機械化・デジタル化を通して、業務全般の変革を図ることを指し、物流業界の課題を解決する手段の一つとして注目されています。
富士ロジテックホールディングスの物流代行サービスは、DXを通じた省人化・効率化に実績があります。貴社の課題に応じたご提案も可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。


発送代行完全ガイド
発送代行に関しての基礎知識が全てわかる徹底ガイドです。発送代行サービスを検討されているEC事業者様は是非ご覧下さい。

ライター
田中なお
物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
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