物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
物流コストの正確な把握は、適正化への第一歩です。サプライチェーン上の多くの工程で、物流コストが発生しているため、見落としなく算出するには、詳しい内訳を知っておくことが重要です。
当記事では、まず物流コストの内訳や分類を解説。そのうえで、売上高物流コスト比率と物流コストの削減方法を紹介します。物流コストの高騰に備え、適切な管理のための参考にご活用ください。
物流コストとは?
物流コストとは、物流業務全般に関連する費用を指す言葉です。
これには、販売物流に関する輸送費のような把握しやすい費用だけでなく、倉庫の光熱費や修繕費、伝票発行に使用する消耗品費なども含まれます。細かく集計すれば、より正確に物流コストを把握できます。
支払物流費と自家物流費
まず、物流コストの内訳を解説する前に「支払物流費」と「自家物流費」という2つの分類について理解しておきましょう。
支払物流費は、輸配送費をはじめとする委託費用を指します。支払実績から集計しましょう。物流機能をすべてアウトソーシングしている場合は、保管料や作業費も該当します。
一方で自家物流費は、自社で担っている物流にかかる費用を指します。配送車両や保管倉庫を所有している場合、減価償却費や維持費、保険料なども含みます。月額のリース代や賃借料が該当する場合もあるでしょう。自家物流費は、原則として推定で算出します。
5大物流機能別の物流コスト内訳
次に物流コストの内訳を、5大物流機能別に紹介します。5大物流機能は以下のとおりです。
- 輸送費
- 保管費
- 包装費
- 荷役費
- 物流管理費
輸送費
輸送費は、陸運、海運、鉄道輸送、航空輸送に関わるコストです。調達物流、社内の横持ち輸送、販売物流、すべての輸送費が対象になります。内訳の中で、最も比率が高い物流コストは、輸送費です。
支払物流費の例:
- トラックのチャーター料
- 路線便、宅配便、郵便などの小口配送料
- 鉄道輸送や航空便、船便などにかかる運賃
なお、仕入価格に含まれる運賃も「みなし運賃」で、含めましょう。
自家物流費の例:
- ドライバー、整備員にかかる人件費
- 燃料費、高速料金、駐車料金など輸配送にかかる費用
- 修理、整備などの維持費
- 車両、車庫などの減価償却費または月額のリース費
保管費
保管費は、在庫を保管する倉庫に関わる費用です。製品のほか、原料、部品、資材の保管を含みます。輸送費に次いで、物流コストの中で比率が高い特徴があります。
支払物流費の例:
- 委託先の物流会社に支払う保管料
自家物流費の例:
- 倉庫の管理スタッフ、作業員の人件費
- 自家倉庫の減価償却費、固定資産税、保険料、修繕費、光熱費
- 倉庫内機器、設備の費用
包装費
包装費は、輸送のためのケース梱包やパレットに関わる費用です。
支払物流費の例:
- 委託先の物流会社に支払う梱包材料費
自家物流費の例:
- 梱包材料費
- 包装作業員の人件費
- 包装機器の減価償却費
- 包装機器の維持管理費
荷役費
荷役費は、製品の入出庫、ピッキング、仕分け、流通加工に関わる費用です。
支払物流費の例:
- 委託先の物流会社や派遣会社に支払う委託作業費または人件費
自家物流費の例:
- 荷役に関わる作業員の人件費
- 荷役に関わる機器の減価償却費
- 荷役に関わる機器の維持費
物流管理費
物流管理費は、物流に関わる本社(事務所)や情報処理に関わる費用です。
支払物流費の例:
- 委託先の物流会社に支払う情報処理費
- 委託先の物流会社に支払う事務管理費
- 納品先の施設を利用するためのセンターフィー
自家物流費の例:
- 情報機器費
- 消耗品費(ラベル、プリンター用紙、リボンなど)
- 通信費
- 本社スタッフの人件費
- 事務所の維持管理費
売上高物流コスト比率の推移と現状
物流コスト比率とは、トータルコストを売上高や粗利金額、出荷金額で割った数値を指します。ここでは売上高に占める物流コスト比率に注目しましょう。
「2023年度物流コスト調査報告書【概要版】」によれば、売上高物流コスト比率の全業種平均は、2021年度に過去20年間で最も高い数値である5.7%を記録しました。
その後、2022年度が5.31%、最新の2023年度が5%と減少傾向を示しています。ただし、この結果は、物流費の減少を意味するものではなく、2021年度の急激な高騰に対する反動と考えられています。
さらに、円安などを理由とする仕入れ物価の高騰により、販売価格および売上高も上昇傾向です。しかし、この上昇分が運賃に十分に転嫁されていない傾向から、売上高物流コスト比率がわずかに減少したという捉え方もできます。
なお、2020年以前の過去10年間における売上高物流コスト比率の平均は4.86%でした。長期的な推移を辿れば、ここ数年の売上高物流コスト比率は上昇傾向にあるともいえるでしょう。
物流コストは高騰する見込み!?変動要因は?
物流コストは今後も高騰すると予想できます。変動要因から物流コスト高騰の理由を紐解いていきましょう。
- 運賃の高騰
- 時給の高騰
変動要因1.運賃の高騰
物流コストの中で占める割合の高い輸送費は高騰していく見込みです。2024年3月、国土交通省より「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃」が告示されました。従来より標準運賃が8%引き上げられ、さらに荷役作業への対価が明示された形です。
また世界情勢の影響により、燃油価格も高止まりの傾向にあります。物流の2024年問題も相まって、運送事業者に適正な価格転嫁がなされるように、公正取引員会が監視を強化しています。運賃および輸送費の高騰は避けられないでしょう。
<関連記事>「2024年問題とは?物流業界の課題に挑む働き方改革とその対応策を解説」
変動要因2.時給の高騰
「地域別最低賃金の全国一覧(過去5年分)|厚生労働省」を参考に筆者が作成
最低時給の上昇も、物流コスト高騰の一因です。政府は2030年代半ばまでに、最低時給の全国平均1,500円という目標を掲げています。
倉庫内作業は物量の波動があるため、パートタイマーとして雇用されるスタッフが少なくありません。時給の上昇が続けば、荷役費をはじめとする人件費関連の物流コストが大きく変動する可能性があります。
物流コストの削減する6つのアイデア
ここまで見てきたように、物流コストは時代の要請により高騰する傾向にあります。一方でさまざまな費用が含まれている分、ムリ・ムダ・ムラがどこかに生じているケースは珍しくありません。物流の適正化により、物流コストを削減できる可能性があります。ここでは、以下の6つの物流コスト削減に関するアイデアを紹介します。
- 梱包サイズを適正化する
- 物流拠点を最適化する
- 適正在庫を保つ
- 倉庫内の作業を標準化する
- 物流システムやロボットを導入する
- 物流をアウトソーシングする
梱包サイズを適正化する
梱包サイズの適正化は、輸送費と包装費の削減に効果的です。梱包材をワンサイズ下げることができれば、配送や梱包資材にかかるコストを圧縮できます。例えば「商品に対して箱のサイズが大きい」、「袋で配送できる商品を箱で配送している」といった場合が考えられるでしょう。
ただし、破損が増えないよう、箱の強度や緩衝材にも留意しなければなりません。顧客体験の向上も視野におき、商品自体をポストインサイズで設計しているブランドもあります。以下の記事も参考にしてみてください。
<関連記事>「EC事業者必見!ポストイン配達で再配達・対面不要!配送サービスを比較」
物流拠点を最適化する
物流拠点の最適化は、輸送費や物流管理費の削減効果があります。
宅配便の配送費が上昇傾向にある昨今では、遠方の地域で商品の売れ行きが良い場合、在庫拠点を分ける選択肢が考えられます。
例えば、北海道や九州に本社があり、そこで在庫を保有しているケースです。関東や関西で商品が売れている場合、在庫拠点を追加した方が配送費を抑えられる可能性があるでしょう。ただし横持ちの輸送費用が発生するため、十分な試算が必要です。
すでに在庫拠点を分散している場合は、集約を検討してみましょう。売上の変化と共に分散拠点の必要がなくなるケースもあります。その場合、在庫拠点を集約することで、物流管理費が削減できるでしょう。
<関連記事>「物流拠点を最適化する方法とは? ポイントや取り組み事例を解説!」
適正在庫を保つ
適正在庫の保持は、保管費の削減につながります。外部倉庫に物流をアウトソーシングしている場合、坪数や箱の個数で請求額が決定するからです。倉庫を賃貸している場合にも、本来ならば不要なスペースに対して、賃料の無駄が発生します。
一方で欠品の恐れも考慮しなければなりません。平均出荷量や調達にかかる日数を把握し、ムダが生じないように心がけましょう。
倉庫内の作業を標準化する
作業手順書を作成し、倉庫内の業務を標準化すれば、荷役費をはじめとする人件費の削減効果が期待できます。
標準化されていない場合、AさんとBさんが異なる手順で作業することにより、かかる時間に差が生じる可能性があります。また、教育にかかる時間とコストも必要です。
多くのスタッフが同じレベルで作業できる工夫により、効率的な荷役作業が可能になります。
物流システムやロボットを導入する
物流システムやロボットの導入も物流コストの削減方法のひとつです。荷役や在庫管理の生産性を向上できるため、荷役費や物流管理費に関わる人件費の削減に寄与します。
例えば、OMS(受注管理システム)やWMS(倉庫管理システム)、ハンディーターミナル、AGV(無人搬送車)、ソーター(自動仕分け機)、自動倉庫などの導入が挙げられます。
商品の特徴や物量を見極めながら、費用対効果を検証しましょう。一人当たりのスタッフが処理できる物量が向上するため、高騰する時給対策にも有効です。
<関連記事>「オムニチャネルの在庫管理にシステム活用が重要な理由!リアルタイム反映と見える化」
「物流DXとは|物流業界の課題やDX推進へのポイント、事例を解説」
物流をアウトソーシングする
物流のアウトソーシングも、多くの企業が実践している物流コストの削減方法です。物流会社への委託により、宅配便や路線便の運賃がボリュームディスカウントされるため、配送に関する輸送費の削減が可能です。また物量の波動に対応する作業スタッフの採用、教育にかかるコストを気にする必要がありません。
物流システムやロボットの導入が進んでいる物流会社もあり、物流のプロからナレッジを共有してもらいながら、時給高騰への対策も可能です。
<関連記事>「EC事業者必見!物流コストを削減するコツ」
「EC物流代行サービスとは?おすすめの代行会社15選を紹介」
物流コストを見直す際の注意点
最後に物流コストを見直す際の注意点について確認しておきましょう。
- 見落としやすい自家物流費に注意
- かいたたきによるコスト削減に注意
見落としやすい自家物流費に注意
自家物流費は、支払い物流費と比較して内訳が細かくなりやすい特徴があります。細かいコストを見落とさないように、光熱費や設備機器の維持管理費、人件費などのあぶり出しが必要です。
人件費の具体例を見てみましょう。「店舗販売員による入荷の受け入れと検品」「営業マンによる自家配送」など、他部門の従業員が物流業務の一部を担っているケースがあります。こうしたケースは見落とされがちですが、0.5人換算で計算に入れると、より厳密に物流コストを把握できます。
物流コストは、物流のアウトソーシングや効率化ソリューションを検討する際の比較材料になるため、ぜひ見える化してください。
買いたたきによるコスト削減に注意
買いたたきによるコスト削減は避けましょう。
特に輸送費の買いたたきについて、独占禁止法の優越的地位の乱用にあたるとして、公正取引委員会が積極的に調査を進めています。コスト上昇分について運送会社と協議せずに価格を据え置く行為も買いたたきに該当するため、注意が必要です。
現在、荷主企業と運送会社間の買いたたきは、独占禁止法に該当するために、注意喚起にとどまる事例が多くみられます。この取り締まりを強化するために、下請法の対象に追加する法改正の検討が始まっているのです。
企業としての信用を守るためにも、買いたたきではなく、効率化や適正化によって物流コストの削減を実現しましょう。
富士ロジテックホールディングスは、物流コストの削減事例あり!
物流コストは、毎月数字を把握して、推移をチェックすることが理想的です。コストが増加した要因を把握できます。
一方で、自家物流費の内訳は多岐にわたるため、集計だけでも時間を要する作業になるでしょう。物流をアウトソーシングすれば、コスト削減が期待できるだけでなく、物流コストの見える化にも寄与します。
富士ロジテックホールディングスは、物流代行サービスを提供する物流会社です。年間当たり1,000万超の輸配送費の削減した事例や、二拠点化、拠点集約で物流コストを削減した事例も豊富にございます。
物流コストにお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
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ライター
田中なお
物流ライター。青山女史短期大学を卒業後、物流会社に14年間勤務。現場管理を伴う、事務職に従事する。その後、2022年にフリーライターとして独立し、物流やECにまつわるメディアで発信。わかりやすく「おもしろい物流」を伝える。
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